【ananトレンド大賞2024・カルチャー】不穏系ホラー
今年は、「恐怖する対象が不明瞭だからこその怖さ」がある、不穏な雰囲気が漂うホラー作品が大きな話題を呼んだ。
「1990年代末のホラーブームでは、『リング』の貞子に代表されるように、恐怖する対象がはっきりしていました。対象が明確だと、“モンスターなら退治する”など対策が取れますが、わからなければどうしようもない。恐怖を求める人たちによる探求の結果、血やお化けなどのわかりやすいものではなく、“何か気持ち悪い、怖い”のように予感や余韻を味わうものにたどり着いたのでは」(怪奇幻想ライター・朝宮運河さん)
ゲームは『8番出口』や、チラズアートの『新幹線0号』などが注目を集めた。
「日常の違和感を見つけるような内容で、気味悪さをうまく落とし込んでいます」
また、ドキュメンタリーの手法を使い、本当にあったことのようにフィクションを描くモキュメンタリー系ホラーもトレンドに。「行方不明展」のような体験型に発展するなど、新しい動きも生まれた。
「ホラーの世界と日常を繋ぎ、現実が揺らぐような体験ができる点が面白い。また、『あれ、怖かったよ』と誰かと共有したくなるホラーの特性とSNSの相性もブームに影響していると思います」
GAME
新幹線車内の異常を探して。「新幹線0号」
国内外で人気を集め、今年「しまむら」とのコラボなども話題のチラズアート作品。
「がらんとした新幹線車内の気持ち悪さなど、心のどこかに引っかかる“何か変だな”という感覚を、上手に落とし込んでいる。日常の隣にある不思議な世界を覗く楽しさがあります」
気になるワードを検索、施設の真実を暴こう。「かがみの特殊少年更生施設」
ある少年院のウェブサイトを調査する、モキュメンタリータイプのミステリーゲーム。
「ホラー界のトレンドの一つ、能動的に謎を解かないと真相がわからない考察系。プレイヤー自ら物語を作り上げ、ゲーム世界の体験者になれるところが魅力」
EXHIBITION
7万人が来場! SNSでも話題に。「行方不明展」
テレビ東京の大森時生とホラー作家・梨、株式会社闇が企画したあらゆる“行方不明”をテーマにした展覧会。
「行方不明者を捜すチラシや携帯電話など、行方不明になった人たちの痕跡などを展示。フィクションですが、そこに浮かび上がる最後のドラマを想像して怖くなったり、すごいものの目撃者になったような感覚に陥ったり。まさに“不穏系”です」
ホラー界の巨匠の大型原画展。「伊藤潤二展 誘惑」
『富江』『うずまき』などで知られる漫画家・伊藤潤二の展示。
「人間が渦巻き状になるなど奇想天外な魅力が。説得力ある絵で描く理屈を超えた世界に懐かしさも感じます」。12月22日(日)まで兵庫・市立伊丹ミュージアムで開催中。TEL:072・772・5959
VIDEO CONTENTS
地上波で流れた衝撃モキュメンタリー。「TXQ FICTION イシナガキクエを探しています」
大森時生プロデュース、失踪した女性の公開捜査番組という設定で3回にわたり放送。
「明確なストーリーがなく、戸惑うような不穏な映像が流れるだけで、地上波で放送したことに驚きました。公共の電波で人捜しをする違和感や、裏側に潜む恐怖などを見せ、SNSで盛んに考察がされていたのも面白かったです」
嘘と現実の境目が揺らぎます。「フェイクドキュメンタリーQ」
モキュメンタリーホラーを有名にしたYouTubeチャンネル。
「解決のしようがない、気味の悪い映像が見やすい長さで流れます。“フェイク”とタイトルで謳った後に、本当っぽい、質の高い映像を見せられる点が面白い。今年は書籍も発売され話題に」
BOOK
怖い体験に加わったような感覚に。『口に関するアンケート』背筋
注目のホラー作家・背筋さんの作品。
「心霊スポットへ行った大学生たちの体験談が綴られていますが、読み進めるうち、それぞれの証言に食い違いが。最終的には恐怖が本を飛び出し、読み手に染み出していくような作りです」。
ポプラ社 605円
斬新なモキュメンタリーホラー。『コワい話は≠くだけで。』3 漫画:景山五月 原作:梨
怖い話を作品にするうち、様子がおかしくなっていく漫画家を描く漫画の完結巻。
「現実でも休載するなど“何か”が起こっていることが読者にわかる作り。原作・梨さんの、新しいモキュメンタリホラーへの挑戦を感じます」。
KADOKAWA 748円
PROFILE プロフィール
朝宮運河
怪奇幻想ライター。ホラーや怪談、怪奇幻想小説などを中心に、書評や作品ガイドなどを執筆。ブックサイト「好書好日」で「朝宮運河のホラーワールド渉猟」を連載。アンソロジーの編纂なども担当。