あったかさで、ほっ。滋味深さで体が満足。
管理栄養士の資格を持つ長谷川あかりさんが提案するレシピは、体にいいのはもちろん、なぜか心にも、おいしさや優しさが染み入ります。その理由には、10代の頃の長谷川さんの経験が影響しているのかもしれません。
「中学から高校に上がる頃いろんなことがあり、高校2年生くらいまで、心と体がつらい、そんな日々を過ごしていました。当時あまりごはんが食べられない中で、どんなものだったら自分が食べたいと思えるか…体に負担がなく気持ちもちょっと上向きになる、そんな食べ物ってなんだろうと、毎日模索していて。そんな中で私が導き出した結論が、“体に良いものを食べよう”ということ。今、自分の体がこういう状態だから、どんな栄養素が必要か、その栄養素はなんの食材に入っているか…。高校生のときはそればかりを考えていたような気がしますね(笑)」
その後もっと体と食べ物について学びたくなり、短大に進み、さらに大学に編入して管理栄養士の資格を取得。そして今は料理家として、さまざまな媒体で活躍中。
「あの頃に比べると、食も含め、いろんなことに対して、ゆるやかに接することができるようになったと思いますね。“この栄養とこの栄養を摂らなきゃ!!”と必死になると、その食事が体に良かったとしても、心には負担になる。私がいいなと思うのは、心にも体にも負担がない料理。それこそが、現代の人にぴったりな“養生”なのではないでしょうか」
昨今の料理はおいしくて栄養があるものが多い。にもかかわらず、人々は“何かが足りない、もっと補わなきゃ”と思い込んでいるのかも…、と長谷川さん。
「今の食は、味や量など、過多なのでは、とも思うんです。たまには必要最低限の栄養で自分の体を満たす日があってもよいのでは。チャージばかりしていると、体の中に隙間がなくなり、本当に必要なものが入らなくなる。ただ足すのではなく、引き算しながら必要なものだけ足していく。養生食には、そんなイメージもあります」
外食も含め、食べたいものは食べる。でもそればかりだと体は疲れてしまうもの。何かが過多になったな、と思ったときが、養生するタイミング。そんなとき長谷川さんは、お粥を作るのだそう。
「わかりやすく言うと、前日に外食で重いものを食べたり、あるいは何かを食べすぎたりしたときは、バランスをとるために軽いものが食べたくなる。材料を入れて小鍋でコトコト、15分程度煮込めばできあがり。湯気が上る器を前にすると、それだけでなんだか気持ちが落ち着いて、ひとくち食べれば温かく優しい味わいが体に染みていく。柔らかく煮込んだご飯は消化も良いので、体にも優しい。材料は少なく、あれこれ面倒な工程もなく、さらにお鍋1つでできるから洗い物も少ない。こういうシンプルなものこそが、疲れているときに心と体を優しく癒してくれるんですよね」
本当は、いつ何時でも食べたいくらい、お粥が大好きだと笑う長谷川さん。テーマに合わせてお粥のレシピを考えるのが、大喜利のようでとても楽しいそう。
「時間がないときに生米から作るのは大変なので、炊いてあるご飯を多めの水分で煮る即席粥がおすすめです。ただ煮るだけなので確かにシンプルではあるんですが、だからこそ奥深く、そして懐が深い料理でもある。どんな具材を代入しても受け止めてくれるので、いろんな組み合わせが楽しめます。なので、例えば胃腸が疲れているから消化に良い食材を使うなど、体調に合わせてもいいし、色みのきれいなトッピングを選んでもいい。香味野菜を使って香りにこだわって作ってもいい。水500mlにご飯200g、あとは出汁が出るアミノ酸豊富なタンパク質食材と野菜を1種類ずつ入れて煮込み、塩3~4gで味を調える。お粥は味を決めきらなくてもいいところも醍醐味。薄味かな? と思う程度で仕上げて、トッピングで味変をするのがおすすめ。また、葉野菜などは最後に加え、軽く火を通すだけにすれば食感が楽しめます。お粥は飲むように摂るもの、と思っている人もいると思いますが、しっかり噛んで食べると、素材の味をしっかり味わえますよ」
今回教えていただいたのは、いずれも手に入りやすい材料を使い、調理時間はほぼ20分程度。それでいて、いわゆる“お粥”のイメージを覆す、知らない味に出合えるレシピばかり。
「料理って、日常のことですが、実はとてもクリエイティブな作業。おいしいものを食べれば体が満たされますし、自分がそれを作ったという達成感を感じることで、心の栄養にもなります。短時間で作れて、味はまるで時間をかけて丁寧に作ったレベルに仕上がるお粥は、まさに心と体に優しい養生食だと思います」
豆乳豆腐粥
豆乳と豆腐に含まれるタンパク質は、体のあらゆる組織を作る一番の材料。梅干しのクエン酸で食欲増進、塩昆布で鉄やミネラルをしっかり摂取。
お米がとろっ、豆腐がつるり。口当たりや喉越しも良く優しいお粥。食欲がないときや、栄養不足が気になるときにこそおすすめ。シンプル・イズ・ベストな一杯。
【材料/2人分】
水…300ml 絹ごし豆腐…1/3丁(約100g) ご飯…200g 無調整豆乳…200ml 塩…小さじ1/2 叩いた梅干し、塩昆布、ごま油…各適量
【作り方】
1、小鍋に水を入れて中火にかける。ひと煮立ちしたらご飯を加え、再度煮立たせたら蓋をして10分煮込む。
2、豆乳、スプーンですくった豆腐、塩を加えたら、沸騰しないように混ぜながら弱火で2~3分煮る。火を止めて器に盛り付ける。梅干し、塩昆布、ごま油をトッピングする。
鶏むね肉と大根おろしのお粥
大根おろしの消化酵素でデトックスを促進、消化・吸収しやすい鶏むね肉のタンパク質は疲れた体に優しい。
鶏むね肉の出汁で煮込むお粥。大根おろしに含まれる消化酵素は熱に弱いので、火を止めてから加えるのがポイント。大根のほのかな苦味が大人味。
【材料/2人分】
水…500ml 鶏むね肉…100g 片栗粉…小さじ1,1/2 ご飯…200g 大根おろし…100g 塩…小さじ1 刻みのり…適量
【作り方】
1、鶏むね肉は1.5cmの角切りにして片栗粉をまぶす。
2、小鍋に水を入れ、中火にかける。煮立ったら1を入れてよく混ぜ、再度煮立たせたらご飯を加える。もうひと煮立ちしたら蓋をして弱火で15分煮る。
3、火を止め大根おろしと塩を加えてさっと混ぜる。器に盛り付け、刻みのりをトッピングする。
ほうれん草と牡蠣とチーズのお粥
肝臓をいたわるタウリンや疲労回復物質のグリコーゲン、貧血予防の鉄など、牡蠣は栄養の宝庫!
オリーブオイルとチーズで、リゾットのような食べ心地のお粥。体に優しく、かつごちそう感のあるものが食べたいときにぴったり。年末年始の集まりのシメにも!
【材料/2人分】
水…500ml ご飯…200g 牡蠣(むき身)…80g(約4個) ほうれん草…1/2束 塩…小さじ2/3 粉チーズ、オリーブオイル…各適量
【作り方】
1、牡蠣は2つ残して残りを4等分に切る。ほうれん草は根元を落とし3cm幅に切って水に10分浸し、ざるにあげてよく水気を切る。
2、小鍋に水を入れ中火にかけ、煮たったらご飯とほうれん草を加える。再度煮立たせたら蓋をして弱火で13分煮る。
3、牡蠣を全て加え、煮立たせたら再度蓋をして弱火で2分煮る。塩で味を調え器に盛り付け、粉チーズとオリーブオイルをトッピングする。
PROFILE プロフィール
長谷川あかりさん
料理家、管理栄養士。著書に『水曜日はおうちカレー クタクタな日こそ、カレーを食べよう。』(大和書房)、『米とおかず』(光文社)のほか、パーソナルムック『DAILY RECIPE』シリーズ(扶桑社)も。