森田剛「自分って生きてていいんだって、希望を感じる」 間宮祥太朗と舞台『台風23号』を語る
演じるというより、まるで自分の肉体を役に委ねるような凄みとリアルさを感じさせる芝居で評価の高い森田剛さんと、強い存在感の中にも感情の繊細な揺らめきを感じさせ、いま注目を集める間宮祥太朗さん。セリフを通して言葉以上の“気持ち”や“空気”を伝える演技派ふたりが、このたび舞台『台風23号』で初共演を果たす。
写真右・森田剛さん、左・間宮祥太朗さん
森田:現時点(7月下旬)で作品の上での僕の役柄でいうと、間宮くんが義理の弟で、その義弟にお金を借りてるんです。
間宮:2万円なんですけどね(笑)。
森田:でもその2万が彼らにとってはデカいみたいで、なんか握られてる感じはあるんですけど。…まぁ、クズです。女ったらしな感じもあるし。
間宮:自分は生まれ育った町…どうやら静岡あたりの設定らしいのですが…町を出たいと思っている役です。現状に不満はあるけれど、じゃあってそれを自ら変えていこうという勇気もないから、何か大きな事件が起きて、今のこの現状がぶっ壊れるのを期待しているような男ですね。
森田:世の中的に言ったらクズ人間なんですけど、でも誰の中にも似たような部分ってあるような気がするんです。その人間くささが、赤堀(雅秋)さんが描く登場人物たちのチャーミングなところで。
間宮:赤堀さんの作品は、登場人物たちの恥部というかダメな日常が結構生々しく描かれていて、それをまるで物陰から覗いているような印象を受けます。
森田:出てくる人ってクズばかりなんだけど、なんか見てると妙な安心感があるんですよね。自分って生きてていいんだって、希望を感じるというか。
間宮:わかります。それぞれにいろんな問題を抱えた人たちが出てきて、描かれることも必ずしもポジティブではないじゃないですか。なのに、見ているとなんだかポジティブな想いになるから…不思議ですよね。
森田:どの人もみんな、いい人に見えて肚の中では違うことを考えていたり、外から見えている部分がすべてじゃなかったりするんですけど、それが逆にリアルな気もするんです。自分としては、役の性根みたいなものを持ちながらも、へんに余計なことをせずにシンプルにそこにいられたらと思ってはいて。
間宮:次に何をしようとか、どうセリフを言おうとか、どんな表情しようとか、そういう雑念が一切入らずに、自然とセリフが出てくるっていうのは理想ですよね。たまに、芝居なんだけど目の前で起きている状況の中にポンッと入って言葉をやり取りしているような瞬間があって。今回、そこを目指せたらなとは思っています。
――生活の匂いが立ち上るような生々しい会話が赤堀作品の魅力。しかし、舞台は稽古に本番と同じ場面を何度も繰り返し演じるもの。毎公演鮮度あるセリフを発するために意識することはあるのだろうか。それでも舞台に挑む理由とは何なのだろうか。
森田:人ってどうしても慣れてしまうし、なあなあになってしまうことってあるじゃないですか。舞台って緊張とか恐怖とか、それが許されない場所だから勉強になるんですね。普段生活してるときってわりと適当だし、あんまり考えてないので、舞台のときぐらいは緊張したいというのかな。自分に刺激を与えたいというか。
間宮:舞台って、毎日反復というか同じ流れをやるからこその発見っていうのもあるんですよね。あと、同じことをやってるはずなのに、絶対にまったく同じにはならない面白さもありますし。でも何より、舞台を観てくださるお客さんは、けっして安くはないチケットを買っていて、その対価というか…何かを得たいっていう覚悟のようなものを持って劇場に足を運ばれているので、その圧を舞台上にいても感じるんですよね。俳優にとって舞台という限られた空間でどう時間を過ごすかが問われる場だからこそ、すごく刺激的ではあります。
森田:お客さんの視線の圧ってすごいよね。でもそこも含めて、お客さんと舞台を作るってことなのかなって思うし、そういうお客さんの視線や空気をコントロールする楽しさもあると思う。でも逆に、その視線をしっかり掴んでないと、離した途端にそっぽ向かれちゃう。そういう緊張感がお互いにある気がしていて。
間宮:掴もうとしても掴もうとしても、指の間からこぼれ落ちていくなってとき、ありますよね。逆に、誰かの発したセリフで、お客さんの集中度が急激に2段階くらい上がるときもありますし。
森田:そこが舞台の難しさであり、面白さでもあると思う。僕は芝居の鮮度を保つために、“ここはこう演じよう”って決めすぎないよう意識はしてるかな。あと、“なんとなくこういう感じ”で満足せずに、ちゃんと理想を持って挑戦していくことを大事にしようと思ってる。
間宮:人って慣れちゃいますもんね。
森田:いい意味でも悪い意味でもね。
間宮:僕が個人的に大切にしてるのは、適度なリラックスですかね。スポーツ…僕の場合は野球でしたけど、自分の求める結果や成果にフォーカスしすぎると体に力が入ってしまって、肝心なところでパフォーマンスが落ちたりするんです。とくに野球も、舞台とかの作品作りもチームでやるじゃないですか。チームとして成果を得ようとすると、個人と比較したときに変化や新しいものが取り入れづらくなってくると思います。でも、リラックスすると自然と視野が広がって、これまで見えていなかったものまで見えてきたりするんですよ。客席のお客さんの様子が気になったり(笑)。
森田:あー、そういうことあるよね。でも、客観的な目を持つのってすごい大事なことだなって思う。
――インタビューでも、芝居と同様、その場の“なんとなく”の雰囲気に流されることなく、自分の実感がこもった言葉で語ろうとしてくれていたふたり。
森田:俺は無意識かもしれない…。
間宮:僕は大事にはしています。たとえば似通った意味でも、言い回しや選ぶ単語によっても与える印象って変わるから、自分の言いたいことに近いニュアンスで届けるにはどう言うのがいいかはすごく考えてます。面倒くさいと言われますけど(笑)。
森田:それで言ったら、普段しゃべらないかもしれない。しゃべらなければ何も起こらないから、そこに頼ってる部分はある。ただ、しゃべるときには自分の中から出てきた言葉を吐きたいとは思っていて、できるだけスパッと明確な言葉で話すように、っていうのは意識してるかもしれないです。
Bunkamura Production 2024『台風23号』 10月5日(土)~27日(日) 新宿・THEATER MILANO‐Za 作・演出/赤堀雅秋 出演/森田剛、間宮祥太朗、木村多江、藤井隆、伊原六花、駒木根隆介、赤堀雅秋、秋山菜津子、佐藤B作 S席・注釈付きS席1万2000円 A席9500円ほか Bunkamura チケットセンター TEL:03・3477・9999(10:00~17:00) www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/24_taifu23/ 大阪、愛知公演あり。
(右)もりた・ごう 1979年2月20日生まれ、埼玉県出身。近作にドラマ『インフォーマ』など。現在、主演映画『劇場版 アナウンサーたちの戦争』が公開中。また出演映画『雨の中の慾情』が11月29日全国ロードショー。
衣装はすべてスタイリスト私物
(左)まみや・しょうたろう 1993年6月11日生まれ、神奈川県出身。近作に、主演ドラマ『ACMA:GAME アクマゲーム』があり、10月25日には『劇場版 ACMA:GAME 最後の鍵』も公開される。
ジャケット¥262,900 パンツ¥141,900 シューズ 参考商品(以上エトロ/エトロ ジャパン TEL:03・3406・2655) その他はスタイリスト私物
※『anan』2024年10月2日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・松川 総(森田さん) 津野真吾(impiger/間宮さん) ヘア&メイク・TAKAI(森田さん) 三宅 茜(間宮さん) 取材、文・望月リサ
(by anan編集部)