人工知能OSと声でセックス? 濃密でなまめかしい官能を描く、映画7選

2022.8.15
総合芸術である映画は、濃密でなまめかしい官能の描写が最も楽しめるジャンルの一つ。さらに俳優への心理的配慮など時代の価値観を牽引する映画界だからこそ生まれている美しい作品をご紹介。映画ライター杉谷伸子と謎の美女B子によるお気楽映画評論ユニット・お杉とB子に教えてもらいました。

光や音の表現で際立つ美しさ。

お杉:胸を打たれるようなセックスシーンがある一方、「え? このシーン必要?」って冷めちゃう映画もある。その違いは、性愛を通じて何を描きたいか、監督と出演者の信頼関係があるかどうか。

B子:「女優は脱げばオスカーが獲れる」といわれた時代もあったけど今はそうじゃない。親密なシーンだからこそ、入念な準備が必要だし、何のために撮るのかが大事だよね。性愛描写は時代を経てどんどん過激になっているかといえば実はそうでもない。18世紀後半、フランスの孤島を舞台にした『燃ゆる女の肖像』は、惹かれ合う2人の女性の姿がとにかく美しい。電気のない時代という設定だから、ロウソクの灯りのみで浮かび上がる肉体がまたきれいで。愛の交歓はほのめかすだけというソフトな表現がまた官能的。

お杉:イギリス映画『帰らない日曜日』も素晴らしかったよ。身分違いの二人が密かに愛し合う、幸せの象徴としてセックスが描かれているから多幸感があった。セックスによって自らを解放していく主人公も素敵なの。『美しい絵の崩壊』は、親友の息子を愛してしまうスキャンダラスな内容。それぞれナオミ・ワッツ、ロビン・ライトという美女と青年との情事が本当に美しくて。俳優の力を感じたわ。

B子:ヨーロッパ映画は、性愛描写に重きを置くよね。

お杉:この春公開の『パリ13区』もよかった。ミレニアル世代の愛と孤独、それを際立たせる刹那的なセックス描写が印象的。「セフレ以上恋人未満」に悩む若者の心が伝わるし、チャットで愛を深める表現も時代を捉えている。

B子:現代的といえば2013年公開の『her』は、人工知能OSと声でセックスするという内容が話題になった。触れることのできない相手と性交渉できるのか。近未来を描いた作品がとても示唆的。

お杉:当時は斬新すぎる設定に驚いたけど、普遍の愛の物語なんだと、今なら思うわ。緊急公開された『アトランティス』は現在を予言していたかのよう。ロシアがウクライナに侵攻する前の2019年の作品で、その舞台は戦争で荒れ果てた2025年のウクライナ東部。全てを失った元兵士がボランティアの女性と遺体回収をする日々の中で、生きる意味を取り戻す。遺体が収められたボディバッグと対比するかのような全裸の二人のセックスに、魂の再生を感じて胸が震えたわ。

B子:いい性愛描写って、行為から二人の想いが思わず溢れ出てしまうものだよね。

お杉:そうね。あと音や光など、五感に訴える表現ができるのも映画のよさだと思うな。

B子:事後の風景描写も大事。そこに監督のセンスが表れる。

お杉:まさに私が大好きな『君の名前で僕を呼んで』のラストで炎を見つめるティモシー・シャラメね! その瞳に年上の青年との愛の記憶を感じさせるの。観たあとにその余韻に浸れるのもいいよね。

セックスによって自分を解放し表現していくヒロインが眩しい。

Sex

『帰らない日曜』
1924年、イギリス。メイドのジェーンが恋した相手は名家の後継ぎ・ポール。幼馴染みとの結婚を控えたポールだが、二人は秘密の関係を続ける。そしてある日曜日、二人は誰もいない邸宅で愛し合う―。グレアム・スウィフトの小説『マザリング・サンデー』が原作。© CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISHFILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021 配給:松竹 全国順次公開中

今の気分まで表現された現代だからこそ生まれた傑作!

Sex

『パリ13区』
台湾系フランス人のエミリーとアフリカ系フランス人教師のカミーユはセックスする仲だが、ルームメイト以上の関係になることはない。カミーユは知人の会社で、大学に復学したノラと出会い、どんどん惹かれていく。ミレニアル世代の男女の恋や性をリアルに描く。© PAGE 114 – France 2 Cinéma 販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング 11/2 DVD発売予定

生と死のコントラストは圧巻。感動せずにはいられないセックスシーンが。

Sex

『アトランティス』
舞台はロシアとの戦争終結から1年後という設定の、2025年のウクライナ東部。戦争によって心身ともに深い傷を負った元兵士が、遺体回収作業に従事する女性と出会い、生きる意味と向き合っていく。荒廃し、絶望に覆い尽くされた世界で芽生えた愛の描写が鮮烈。© Best Friend Forever 発売:ニューセレクト 販売:アルバトロス 全国順次公開中

セックスシーンから愛が伝わってくる。美しいライティングで上品な色香。

Sex

『燃ゆる女の肖像』
孤島の屋敷に住む貴婦人から、娘エロイーズの見合いのための肖像画を依頼された画家のマリアンヌ。絵の対象として、恋慕する相手として、マリアンヌは2つの目線をエロイーズに注ぐ。二人は惹かれ合っていくが、絵の完成はエロイーズの結婚を意味していた。写真:アフロ/Aflo 各種レンタル配信

声、息遣い、言葉だけで伝わる二人の熱い交わり。

『her/世界でひとつの彼女』
舞台は近未来のアメリカ。妻と別居し、絶望の中にいるセオドアは人工知能のサマンサに出会い、戸惑いながらも彼女に恋心を抱くようになる。まるで人間のように怒ったり落ち込んだりする人工知能OSを担当したのはセクシーボイスのスカーレット・ヨハンソン。Huluほか

親友の息子と絡み合い、美しき母たちの色香が漂う。

『美しい絵の崩壊』
子供の頃から親友の二人はそれぞれの息子と共に家族ぐるみで仲良く海辺の街で過ごしていた。ある日、親友の息子から隠していた恋心を打ち明けられ、次第にそれぞれの関係が変わっていく――。ラストはまさに美しい絵が壊れていくような、衝撃の展開。Amazon Prime Videoほか

瑞々しく、淡く、切ない青年同士のひと夏の恋。

『君の名前で僕を呼んで』
1983年の夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは24歳の大学院生オリヴァーに惹かれ、二人は激しい恋に落ちる。しかし、夏が終わりを告げる頃、オリヴァーが避暑地を離れる日が近づいて――。エリオを演じたティモシー・シャラメは今作が出世作に。Hulu、FOD、dTVほか

お杉とB子 映画ライター杉谷伸子と謎の美女B子によるお気楽映画評論ユニット。オスカー受賞作からおバカ映画まで好き嫌いなく、幅広く紹介。ananでは「お杉とB子のMOVIE TALK」を隔週連載中。

※『anan』2022年8月17‐24日合併号より。取材、文・浦本真梨子

(by anan編集部)