10分に一回の性的描写がルール!? 50周年を迎えた“日活ロマンポルノ”の現在地

2022.8.17
愛と性を描き続けてきた日活ロマンポルノの50周年を記念して、3本の新作映画が製作されるプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」。その第1弾として9月16日に公開される『手』の監督が語った、時代の今を切り取るロマンポルノの現在地とは。

日活ロマンポルノって?

長きにわたり愛され、誕生50周年を迎えている成人映画レーベル「日活ロマンポルノ」。特徴や映画界における位置づけ、魅力的な作品が生まれた背景を紹介します。

1 映画史上、最もセンセーショナルな作品レーベル。

日活が1971年に立ち上げた、当時の映倫規定における成人映画レーベル。第一作『団地妻 昼下りの情事』『色暦 大奥秘話』に始まり、製作終了した1988年までの17年間で約1100本が公開された。クリエイターたちは限られた制作費の中で新しい映画づくりを模索、国内はもちろん海外でも大きな話題を集めた。

2 「10分に一回の性的描写」など一定のルールがある。

レーベルの特徴に、「10分に一回は絡みのシーンを作る」「上映時間は70分程度」など、一定のルールが設けられていたことが挙げられる。2016年に発表され、5人の監督が作品を手がけた「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」では、「制作費は全作品一律」「撮影期間は1週間」などのルールを導入。

3 気鋭の作り手の実験場として名監督を多数輩出。

通常3本立ての公開を維持するために量産体制を敷いたことで、多くの若手監督がメガホンを取り、スタッフ・キャストともに’80年代以降の日本映画を支える人材が育っていった。神代辰巳、田中登、小沼勝、曽根中生をはじめ、名だたる監督を輩出。相米慎二、そして5月に逝去した石井隆も手がけている。

『手』監督・松居大悟が語る、「ロマンポルノ」という挑戦。

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山崎ナオコーラさん原作の『手』を手がけた松居大悟監督。

「敬愛する相米慎二監督が『ラブホテル』で参加したロマンポルノを撮れるのならやってみたいと思いました。原作がある作品をしばらくやっていなかったので、すでに完成されているものを視覚化することが上手くできるか不安でしたが、この物語は主人公のさわ子が父親に愛されていないことから始まった気がしていて。僕も父親に対してコンプレックスがあるので重ねられるなと。クライミングで一番最初に掴める石のようなとっかかりがありよかったです」

ロマンポルノならではのルールを守ることは、楽しめたという。

「10分以内に一度性的描写を入れることが制約の一つにあって。“この辺で何かやらなければ”と台本を読みながら探るのが面白かったし、このレーベルに立ち向かっている感じがありました。すぐに(セックスを)見せてしまうと、何かもったいない気がしたから絶対にジラそうと。普段、人には言わないセックスを映像化することは、恥ずかしい部分もあるし難しいです。たとえば腰の揺らし方にしても、俳優が役に入って演じたものに違うと言うのもなと。“もっとこう”と言っても、それは自分の価値観でしかないですし」

出演者の福永朱梨さんと金子大地さんについては「人間力がある」と話す。

「汗とか匂い、体温はちゃんと感じるのですが下品じゃない。この二人の物語を追いかけたいという気にさせる力があります。圧倒的に芝居も上手い。恥ずかしさなど色々あったと思うけど、芝居について言いやすい環境を作ってくれたり、作品に対して誠実でいてくれた気がしています。さわ子は、何かに逃げたり、誰かの代わりに何かを愛したりと、生きるためにバランスをとっているけれど、その姿勢自体がおかしなことになっている。でも、自分や自分の周りにも同じような人はいて、真面目な人ほどそうなっていたりして。肯定するのではないけど、肩の力を抜かせてあげられればいいなと思いました。今作は、今の人たちに向けて作るということ、風通しのいいものを作ることを大事にしています。背徳感もありながらドラマもある面白い心模様を描けてると思うし、学校や街中では見られないものを見ることで、人間が豊かになるのかなと。ぜひ気軽に楽しんでほしいです」

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『手』 おじさんの写真を撮り、集めるのが趣味のさわ子。付き合ってきた男性は年上ばかりなのに、父とは上手く話せずにいた。そんな時、同年代の同僚・森との距離が縮まるにつれて、さわ子の心にも徐々に変化が訪れる――。出演/福永朱梨、金子大地 監督/松居大悟 9/16(金)より全国順次公開リアルな男女の関係と父への複雑な想いを描く。
写真・「ROMAN PORNO NOW」第1弾作品『手』より。©2022日活

まつい・だいご 1985年11月2日生まれ、福岡県出身。2012年に『アフロ田中』で映画監督デビュー。主な作品に『私たちのハァハァ』『アズミ・ハルコは行方不明』『くれなずめ』『ちょっと思い出しただけ』など。劇団ゴジゲン主宰。

※『anan』2022年8月17‐24日合併号より。取材、文・重信 綾

(by anan編集部)