女性同士の人間関係に変化 いま要注目の“シスターフッド”って?

2020.9.20
女性同士の共闘などを意味するワード“シスターフッド”。いま私たち女性を結びつけるのは、ネットや本に溢れる“言葉”です。自らも女性への作品を書いている、作家の王谷晶さんに伺います。

今シスターフッドの言葉が、私たちの心に響く理由。

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‘60年代後半、女性たちが権利獲得のために起こした“ウーマンリブ”運動の中で生まれたこの言葉。長い月日を経て、2020年の今、改めて注目が。

「私にとってシスターフッドとは、仲良しじゃなくても、女性同士、一つのイシューに向かって理念を共有したり、共闘できる、そういう関係のことだと思っています。例えば、“世界一キライなあの女子とも、この問題に対しては意見が同じだから、横に並んで一緒に戦える”というようなつながり。長い間私たちは、女の人間関係には必ず愛や友情があるもの、という概念を押し付けられてきましたが、ここ最近、人間関係はもっとドライな関係であり、そういった関係を女性も構築できる、ということに世間が気がついたと思うんです。その気づきによって、女性同士の人間関係が変わり、“シスターフッド”的なつながりが増えたり、また注目されているのでは、と思います」

と言うのは、女と女の物語や、女性についてのエッセイなどを執筆している、作家の王谷晶さん。女性同士の連帯が強まってきたことの理由は、SNSの存在だと話します。

「まず以前は、何かを発言するという場所はほぼメディアしかなく、しかも既存の商業メディアで上に立つのは、ほとんどが男性でした。その結果、彼らの承認を得ないことには、才能のある作家でさえ、女性はメディアを通じて発言する機会を持つことができなかった。しかしブログやSNSが登場したことで、スマホなどが1台あれば、誰でも好きに発信できる。その結果女性は、誰の許可も、愛想笑いも、身体的な危険を感じる必要もない状態で、なんでも発言ができる場所を手に入れた。女性にとって、初めての状況だと思います。そこでみんなが思うことを文字に書いて発信したところ、“わかる!”と全国津々浦々から女性たちの賛同が。“いいね”と“リツイート”によって、これまで出会うはずもなかった、断絶されていた女性たちが、言葉を介してどんどんつながっていった。女性が、女性の書く言葉に共感し、励まされる。特に、“誰かの怒り”を読み、それによって“あ、これについて怒ってよかったんだ”と気づきを得ると、今まで諦めていたことや、スルーしていたことに疑問を持つようになる。SNSで生まれたそういった動きが積み重なったことが、今の“シスターフッドの大衆化”につながっていったのでは、と考えています」

デジタル化が進み、映像を楽しむことが増えた今。でもだからこそ、言葉の力はより重要になっている、と王谷さん。

「言葉って、ひと目見てわかるものではない。一度読んで、咀嚼して呑み下さないとなかなか理解できない。その力は即効性と遅効性のどちらなのかといえば、遅効性なんです。でもだからこそ、一度呑み込んだら体の中に長くとどまりますから、効果は長く、深いんですよ」

雑誌『文藝』で特集が組まれるなど、文章のメディアにおいて、シスターフッド感のある作品の増加が感じられる昨今。その理由を聞いてみると…、

「映画やドラマなどは、関わる人数も多いので、“今シスターフッドが来てるから、そういう作品にしよう!”と、そう簡単にハンドルを切ることはできません。でも小説やエッセイといった文章作品は、作家一人で作れるクリエイションで、戦うとしても、編集者と一対一。なので比較的、作家の意思が通りやすいというメディアの特性があります。あと個人的に大きいと思うのは、村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』のヒット。恋愛にプライオリティを置かない女性を描いた物語が、日本だけではなく世界中で共感を呼んだ。あの成功以降、女性作家が書く、恋愛ではない少し変わった物語という企画が通りやすくなった気がします(笑)。“女流”作家といえば恋愛、あるいは性愛を書く、また女性読者は恋愛小説しか読まない。その枠以外の書き手や読み手がいることが、2010年中頃以降、やっと可視化されたのではないでしょうか」

今回、王谷さんには、シスターフッドを感じる書籍を4冊紹介してもらいました。

「エッセイ、小説、マンガ…、ジャンルはいろいろですが、いずれも女性をファンタジーとしてではなく、血肉のある人間として、地に足をつけて生活している生物として描いている作品です。今でもまだ、組織や会社、家庭などで真面目に働き、社会にコミットすればするほど女性は、“いないもの”として扱われてしまうことが多い。この4冊は、そんな透明にされてしまいがちな私たちの脚に、色を持たせ、血を通わせてくれる作品です。私自身これら女性が生んだ言葉を読み、大人になっても自分らしく、好きに生きていいんだ、と勇気をもらいました。結婚や仕事など、何かにつけてリセットさせられ、断絶されやすい私たちですが、SNSやネットメディア、そしてこういった書籍の中にある言葉こそが、断ち切られた関係を縫い留めたり、ハシゴをかけたりしてくれる存在なのではないでしょうか」

おすすめのシスターフッド本

『マイ・ブロークン・マリコ』

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死んだ親友を連れ、逃避行に出る主人公。その旅路の行方は?
親から虐待を受けていた親友の死を知った、ブラック企業で働く主人公。死んだ親友の遺骨を奪い、“2人”で旅に出る物語。「深い結びつきのある、かなりエモーショナルなシスターフッド物語。マンガならではの描写がいい」平庫ワカ著 ¥650(KADOKAWA)©平庫ワカ/KADOKAWA

『ピエタとトランジ〈完全版〉』

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女子高生から80歳まで。2人の友情を延々と描ききった名作。
天才女子高生探偵・トランジは、周囲の人を殺してしまう特異体質。しかし相棒のピエタだけはなぜか死なない。「高校時代に出会った2人が80過ぎのおばあさんになるまでを書いた物語。最強の女子バディものです」藤野可織著 ¥1,650(講談社)

『ふつうがえらい』

Book

大人になっても好きに生きていい。勇気をくれる一冊。
絵本『100万回生きたねこ』で知られる作家のエッセイ集。「子供の頃これを読み、息子もいる佐野さんが友だちと飲みに行ったり遊んだりしている描写を読んで、大人になっても友だちと遊んでいいんだ…と勇気づけられました」佐野洋子著 ¥520(新潮文庫)

『るきさん 増補』

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付かず離れず、踏み込みすぎず。いい女の友情。
在宅で仕事をする主人公・るきさんと、友人のえっちゃんの日常物語。「この2人の“つるんでいる”という感じが、非常に心地よい。こういうサラッとした友人関係って現実にはよくあるのに、なかなか描かれないので、貴重です」高野文子著 ¥580(ちくま文庫)

『文藝』 2020年秋季号 特集「覚醒するシスターフッド」

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今年の7月に出たこの雑誌が話題に!
昨年春にリニューアル以来、ヒットを飛ばし続けている文芸誌『文藝』。今年7月発売の号で、「覚醒するシスターフッド」という特集を組み、シスターフッドという概念や、女性作家の作品への注目度アップのきっかけになった。¥1,350(河出書房新社)

おうたに・あきら 小説家。著書に『どうせカラダが目当てでしょ』など。右の『文藝』掲載の中編に加筆した小説『ババヤガの夜』(共に河出書房新社)を10月に発売。

※『anan』2020年9月23日号より。写真・中島慶子 イラスト・石山さやか サイトウユウスケ 

(by anan編集部)