生き残った人の共通点が気になる! 終末世界を描く小説『パライゾ』

2020.6.12
デビュー作『厭世マニュアル』をはじめ、現代の若い人の痛々しい自意識を描いてきた阿川せんりさん。第4作となる『パライゾ』は終末世界が舞台というから意外だ。

生き残った人々の奇妙な共通点。彼らの行動を追いかける終末小説。

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「3作同じ路線で書いたので、次に前から構想していた全然違うものを短編で書いたところ反応が良く、長編にすることになりました」

人類滅亡小説は数多くあれど、ここまで奇妙なものも珍しい。本作ではある日突然、多くの人々が黒いぐずぐずの物体に変化してしまう。

「最初は消滅する設定も考えたのですが、なんらかの形で残ったほうが面白いかなと思って(笑)」

生き残った人々の行動が描かれる本作。第1章では、秋葉原でぐずぐず化を免れた青年が一人の女と出会い、行動を共にする。が、言動が不穏なこの女、新たな人間を見つけた瞬間、相手を殺してしまう――。

「実は自分は殺人鬼に詳しいと自負しておりまして(笑)。巻末に載せた参考文献も、新たに買ったものでなく、もともと集めていた本です。例えば連続殺人鬼でも秩序型と無秩序型がいたりする。そのあたりは再読しながら考えていきました」

二人は行動するうち、生き残った人間にはある共通点があると気づく。果たしてそれは? 他にも北品川や新宿、札幌など実際に著者自身が訪れた場所や、あるいは飛行機内や刑務所などを舞台に、各地で生き延びた人たちの行動が描かれる。

「事態が把握できないまま死ぬ人もいれば、工夫して状況を楽しもうとする人もいるし、対応できない人もいる。章ごとに自分も一人一人の行動を追っていく感じでした。登場人物に共感するのは難しいかなと思っていましたが、第5章の『愛』の話では最終的に、感情移入して泣いてしまいました」


インフラも途絶えた世界で人々が生き延びるのは困難で、残酷なことも描かれる。それでもこの、物語に引きこむ力はなんだろう。

「終末ものは、生き残る美しさを描いた作品も多いと思う。でも今回はそれを書こうとは思いませんでした。ある方の“今さら大人に愛とか希望とか必要ない、大人ならそんなものなくても生きてみせろ”という言葉がずっと自分の中に残っています」

今後は希望のある話も執筆予定。作風の幅を広げていく予感に期待大。

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あがわ・せんり 1988年、北海道生まれ。2015年「厭世マニュアル」で野性時代フロンティア文学賞を受賞しデビュー。他の著作に『アリハラせんぱいと救えないやっかいさん』『ウチらは悪くないのです。』が。

『パライゾ』 人間たちが一瞬にして黒くぐずぐずした塊となるという怪現象が発生。だが、各地に生き残った人間たちがいた。その共通点は一体…? 光文社 1600円

※『anan』2020年6月17日号より。写真・土佐麻理子(阿川さん) 中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)