「『早く大人になりたい、文治さんに追いつきたい』といういじらしさも可愛い姫子は、私の理想の少女像です。文治は、正統派美形とは違う魅力的な男性を描きたいという気持ちからできたキャラクターです」
文治はまだ姫子を恋愛対象と見てないが、許婚として大切にしている。
「編集の方がつけてくれた〈戀(こい)から愛へ〉はすごくいい帯文だと思っていて、たぶん恋から愛へ変わるのが姫子、文治は愛から恋になっていくのかな、と。姫子が成長するにつれ、姫子への思いや女性に対する考え方の変化をうまく描けたらなと」
既出作『ルドルフ・ターキー』では、’50年代のアメリカ黄金期を描いた。今度は華々しく西洋化し、同時に、軍国化していく大正が舞台だ。
「当時の時代情勢だけでも調べることが山のようにあるのに、軍人の特殊な世界も盛り込む。私の知識では到底足りないので有識者のお知恵もたくさん借りなければ…と大変さは覚悟の上。ただ描きたいものから逃げたくなかった。自分からハードルを上げてしまいました(笑)」
表紙からも歴然だが、画の濃密さにはため息が出る。しかも、すべてアナログだというから恐れ入る。
「日本家屋、大正着物、軍服など全部難しいんですけど、『あー、こういう古いものって好きだー』と楽しんでいます。実は『ルドルフ~』のときより人手を減らして、描いているのは、私と、知り合って16年のスーパーアシスタントさんのふたり。私が多く画に触ることで、まとまった空気感を出すことができているのかな、と思います」
ちなみに、姫子の家族や女中たちとの輪も、物語の大きな魅力だ。
[gunosy]
→誰にも興味を持てない男の子と、誰とでも寝てしまう女の子を描く漫画とは?もチェック!![/gunosy]
「姫子と文治だけではなく、その周囲にいる人たち、軍人たち…大事にし合う人たちを描きたいなと思っているんですね。人を大事にしよう、感謝して生きようというのは、自分の中にも常々ある思いで、どの作品を描くときにもそれを込めて描いていきたいです」
『煙と蜜』1 姫子と文治の物語は一度、読み切り作品として描かれたことがある。連載にあたって姫子の性格を少し変えたそう。ピュアな姫子の恋を応援したい。KADOKAWA 660円 ©長蔵ヒロコ/KADOKAWA
ながくら・ひろこ マンガ家。1984年、静岡県生まれ。2004年、デビュー。他の著作に『ルドルフ・ターキー』(全7巻、KADOKAWA)など。
※『anan』2020年2月26日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)