
すこやかな腸内環境を作り上げ、免疫のバランスを整えてくれるのが腸内細菌。お腹の中で人知れず働いている、健康の中核的存在・腸内細菌の仕組みや特徴を、最新の研究結果や知見を交えて詳しくチェック。
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お話を伺った方
Profile
國澤純
日本の腸活研究を牽引。大阪・関西万博では「腸内細菌抗体検査」の基本となる技術を提供。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所医薬基盤研究所の副所長や、数多くの大学の教壇に立つなど、マルチに活躍。近著に『人生を変える腸内細菌』(ナツメ社)。
基本の腸活の心得は?
正しい腸活を実践していくために、まずは基礎知識をおさらい
腸活は、地道なトライ&エラーがものをいう。
「腸活の基本の考え方は至ってシンプル。自分の腸内細菌に合った食品を取り入れることで、腸内細菌にエネルギーを与え、細菌の多様性と働きを高めていくこと。合う食品は人によるので、なるべく多くの食品から五大栄養素を摂ることを意識して。例えば納豆やキムチといった小鉢を加える、食卓に果物を増やすという小さな心がけでもOK。早い人だと2週間ほどで、腸内細菌のバランスに変化が。腸内で有用な菌が育ち、消化と吸収を促す蠕動運動や免疫機能がUPし、スムーズな排便や疲労感の軽減、メンタルの安定といった体感を得られることもあり、体の内側から健康に近づけます」
腸活の心得
腸と菌にも、相性がある!
腸内環境は十人十色。親子であっても腸内細菌の分布がまるっきり同じとは限らない。味の好みが人によって違うように、腸内細菌が違うと、好みの栄養も異なる。
毎日のお通じチェックが大切!
お通じは、体の調子を知らせてくれる腸からのお便り。トイレットペーパーで拭かなくても済むくらいのスルッと出る形状が理想的。流す前に一度様子を見てみよう。
腸内細菌の“多様性”を意識すべし
腸の世界は、スーパースターやカリスマ菌が1種類いるだけでは成り立たない。ポテンシャルを秘めた菌のメンバーがたくさんいる方が、“チーム腸”の未来が拓ける。
腸活を促す3つのバイオティクスに注目
なんだか呪文のように聞こえる3つのバイオティクスは、健康な腸に必須のキーワード。それぞれの働きと効果を整理しよう
「腸活におけるバイオティクスとは、腸内環境を整えるために必要な3つの要素。腸にとって有用な菌がエサにするプレバイオティクスと、有用菌そのものを指すプロバイオティクスがあります。この二つを合わせて、シンバイオティクスと呼ぶことも。どちらも食事やサプリメントで補えますが、サプリに頼りすぎると、食品に含まれる豊富な+αの栄養素が抜け落ちてしまう可能性が。あくまでも補助的な範囲にとどめておくのがよいでしょう。ポストバイオティクスは食品から補えるものもありますが、主にシンバイオティクスを活用した腸内細菌が生み出す有益な代謝物。バランスの良い栄養摂取を心がけ、すこやかな腸内環境を目指しましょう。特に意識したいのは、腸内細菌のエサとなり、短鎖脂肪酸が作られやすい発酵性食物繊維と、腸内細菌をサポートする菌を含む発酵食品です」
3つのバイオティクス
プレバイオティクス
腸内細菌のパフォーマンス力を引き出すための大事な材料
腸内の有用菌を増やすためのエサになる栄養源のこと。代表的な例が、食物繊維やオリゴ糖。しかし、日本人の食物繊維の摂取量は減少傾向にあるという。野菜や果物から積極的に摂っていく必要がある。
プロバイオティクス
有用な菌たちを食事で直接腸にデリバリー
キムチや納豆、ヨーグルトや乳酸菌飲料などの発酵食品に含まれる微生物を指す言葉。腸内細菌では足りない働きをサポートしてくれる効果がある。味噌や漬物といった食品にも多く含まれている。
ポストバイオティクス
令和の腸活研究における最注目。有用菌が生み出す恩恵物質
有用な菌が腸内でしっかりと働いた末に作り出す成果物。菌がかいた良い汗と考えるとわかりやすい。ストレス緩和やリラックス効果で知られるGABAや、いま注目を浴びている短鎖脂肪酸もそのうちの一つ。
ポストバイオティクスに含まれる、“短鎖脂肪酸”って?
近年、注目度と期待が特に高まっているのがポストバイオティクスの一つである短鎖脂肪酸。いったいその働きとは?
「短鎖脂肪酸は、腸内の有用な細菌たちが代謝と分解のプロセスを経て生み出すポストバイオティクスの中で、特に注目されている代謝物の総称。ズバリ腸の中で働くいい物質たちのことで、今日の研究では、酢酸や酪酸、プロピオン酸が該当。腸粘膜のバリア機能をサポートしたり、腸内を酸性に保ち、有害菌が増えにくい環境づくりに関わります。なかでも特筆すべきは、免疫機能のブレーキ役を育てる酪酸の力。Tレグ細胞と呼ばれ、過剰なアレルギー反応や炎症反応を抑制する免疫細胞を増やしてくれる。Tレグ細胞を発見した大阪大学の坂口志文先生が2025年にノーベル生理学・医学賞を受賞。花粉症対策や、癌研究の分野でも期待が高まっています」
代表的な短鎖脂肪酸
酢酸
短鎖脂肪酸の半分以上を占める。有害菌の増殖抑制や、病原菌やウイルスの排除に寄与。酪酸やプロピオン酸を作り出すための材料でもある。
酪酸
酪酸産生菌が作り出す短鎖脂肪酸のひとつが酪酸。蠕動運動や免疫機能の活性化に働くが、産生量が少なく腸内の占有率も低め。
プロピオン酸
食物繊維やオリゴ糖などの難消化性炭水化物の発酵によって生み出される。交感神経のスイッチを入れ、エネルギー代謝をバックアップする。
短鎖脂肪酸の役割
✅️ 免疫のバランスを整える!
短鎖脂肪酸は、免疫の暴走反応を食い止めるブレーキの役割を担う。高すぎず・低すぎずの、免疫の恒常性を保つことで体の健康状態をキープする。
✅️ 腸のエネルギー源になる!
消化と吸収・排泄に必要な蠕動運動を促進。病原菌が侵入したときに腸内細菌が対応する際や、腸内側の表面にある細胞のエネルギー源でもある。
✅️ 悪玉菌の増殖を抑える!
悪玉菌の嫌いな酸性環境を作り、その数を減らす。体に有用な菌が増えれば、悪玉菌の増殖は抑えられ、腸内の生態バランスの恒常性を維持してくれる。
短鎖脂肪酸を作り出す、菌のリレーとは?
腸内細菌は単体で力を発揮しきれない。短鎖脂肪酸を生み出すための、代謝と分解プロセス・菌のリレーをクローズアップ
腸内細菌は連携プレーで活躍。「今までは、ビフィズス菌や、中性脂肪の蓄積を抑えるブラウティア菌の“痩せ菌”が流行ったのを例に、特定の菌を増やすという考えが主流でしたが、菌を生み出すためにはサポート菌が必要なことが明らかに。短鎖脂肪酸も同様で、菌同士が栄養のバトンを受け渡すことで産生される。ここで重要になるのが、やはり菌の多様性。第一走者の菌AとアンカーのCがいても、中継所にBがいないとバトンが途切れる。選手の種類が多いほど、リレーの成功率が上がるというのが結論。短鎖脂肪酸を増やすためにも、食生活で菌のリレーの選手となる有用菌を揃えることが、これからの腸活において目指すべきところだと思います」
菌のリレーの仕組み

第1ステップ:短鎖脂肪酸の産生を目指して、菌たちによるリレーがスタート
菌のリレーの第一走者は、デンプンや食物繊維といった炭水化物をエネルギー源にする、納豆菌や麹菌などの糖化菌。食べ物に含まれる炭水化物を原料に、キャッチした燃料をもとに、糖を産生していく。
第2ステップ:仲介する菌が栄養を運搬。短鎖脂肪酸を着々と増やしていく
第二走者は、乳酸菌やビフィズス菌。糖化菌から受け取った糖をエネルギー源に腸内を進む。代謝と分解の過程で、乳酸や、短鎖脂肪酸である酢酸を地道に生み出していく。そのため、ヨーグルトを選ぶ際は、乳酸菌に加え、乳酸と酢酸を作るビフィズス菌入りのものにも注目したい。
第3ステップ:短鎖脂肪酸を作るための菌のリレーは終盤戦。ゴールを目指して一直線
アンカーは酪酸菌やプロピオン酸菌。第二走者が届けた酢酸や乳酸を代謝し、酪酸やプロピオン酸を作り出す。これらの短鎖脂肪酸の数を増やすことで、体全体やメンタルにも良い影響を及ぼしていく。
anan 2504号(2026年7月15日発売)より

































