
その確かな演技で現代劇から時代劇まで、硬軟問わずTVドラマや舞台を中心に幅広く活躍する山本耕史さん。近年は、そのマッチョぶりや怪演にも注目が集まっています。
近頃、ドラマやCMで筋肉近隆々の肉体を生かし怪演を見せている山本耕史さん。その山本さんの次回作は、男性ストリップショーに挑む男性たちを描いたミュージカル『フル・モンティ』。宣伝ポスターでも、見事な肉体を披露している。
── 『フル・モンティ』は、1997年公開の同名映画をミュージカル化したものですが、この作品への出演を決めたのは?
決めたというか…って感じなんですよね(笑)。一昨年、『RENT』というミュージカルをやっていた時に、演出のトレイ(・エレット)から「次、何やりたい?」って聞かれたんです。僕は念願だった『RENT』をやれて、見たい景色に辿り着いた気持ちでいたから、「なんでもやるよ」みたいに返していたら、「耕史にぴったりの作品がある」と、この作品の話をされました。その時はどこまで本気かわからず話半分に聞いていたのが、徐々に実現の方向に向かっていって。その流れでなんとなくって感じなんです。
── ぴったりの作品と言われて男性ストリップの物語を提示されて、どう思われました?
作品の存在は知っていたけれど観たことがなかったから、「絶対にやった方がいい」と断言されて、そこまで言うならという感じでした。実際、体を鍛えていますし。『RENT』をやり終えた今、次がどんな作品でも、何があっても怖くないという気持ちだし、またやりたいと言ってくれたことも嬉しいなって。
── この作品の魅力をどこに感じています?
知れば知るほど、いい作品だなと感じています。映画はドラマ仕立てですけれど、ミュージカルの方が合ってたんじゃないかと思うくらい。物語は、それぞれに悩みや葛藤を抱えた男たちが、今の状況を打破するために一夜限りの大イベントをするわかりやすいもので。モダンさもありつつ’70年代、’80年代を感じられる音楽もあって、粋というか、おしゃれな作品です。最後が爽快に終わるのもいいですよね。ただ、自分にとっては新しい試みなので、一番苦労した忘れられない作品になるだろうなという予感はあって。
── それは、前回の『RENT』もでしたが、日米合作による全編英語での上演に対して?
今、必死にセリフも歌も覚えているところだけど、何が一番大変かって、自分でどこまでできているのかがわからないっていうね。『RENT』も全編英語だったけれど、すでに楽曲は頭に全部入っていたし、セリフも8割が歌で。今回は真逆で歌が2割で8割がセリフ。今の時点では、お芝居の練習をしているっていうマインドではなくて、計算式を覚えているような感覚。有酸素運動…たとえば自転車を漕ぐとか、ウォーキングをしながら頭から終わりまで歌を入れて、大体1時間弱くらいを毎日ひとりで通しています。ただ、完全に丸暗記だから、相手の芝居が入ってきた時にどうなるか。セリフを飛ばしても気づかないんじゃないかとか、まだまだ心配がつきません。
── どうしても男性ストリップが注目されがちですが、親子愛や社会問題も描いてますよね。
人間ドラマですよね。離婚して子供の親権を取られそうだったり、教育費を払わなければいけないのに失業してアルバイトもままならなかったり。それで稼ぐためにストリップをやるんだけど、そこと、今までの“すべてを脱ぎ捨てる”というところがリンクしていくっていう。ショーの場面では実際に劇場に来たお客さんがそのままショーを観に来た観客役になるのも面白いよね。
『RENT』で自分はこういうことがやりたい人だとわかったんです

── そもそも体を鍛え始めたきっかけはありますか?
きっかけというか、じつは鍛えるのは10代の頃から好きだったん。ただ、40歳くらいの頃に『髑髏城の七人』という劇団☆新感線の舞台に出た時に、幕が開いてすぐに肉離れを起こしてしまって、地獄のような残りの81公演を過ごしました。それまでも鍛えていたけれど、上半身が中心で脚をあまり鍛えていなかったんですよね。そこから下半身もちゃんと鍛えようと思ってやり出したら、土台が大きくなるのに比例して上も大きくなって…という。実際、筋トレにハマりまくっていた時期があり、デカすぎると言われたりしてました。でも最近、以前は「なんでやるんですか?」って言っていた香取(慎吾)とか堺雅人さんとかもジムに行って鍛えたりしているので、なんだよって思ったりしてます。
── ハマった理由というと?
最初は、単純に男の子だから、重たいものを上げられるのが誇らしい、みたいな気持ちです。それは今も根底にありますけれど、下半身を鍛え始めたくらいから、違う楽しさになってきました。以前は年に2回くらいぎっくり腰をやっていたけれど、まったくやらなくなったり、たまに体を痛めても、昔は数週間かかってたのが数日で回復するようになったり、如実に変わってきたんです。今の方が体が安定してる感じがします。
── ただ、俳優さんの場合、体が変わることでくる役の方向性も変わってきたりしますよね?
まあそうですね。
── それはどう感じています?
面白いし楽しいですよ。以前、大泉洋さんに「もし病弱で痩せ細っていく役がきたら?」って聞かれたんですけれど、「即答で断ります」って言ったんです。今の自分にとってベストな状態を曲げてまで俳優業をやろうとは思っていないんです。役に合わせて痩せたり太ったりされる俳優さんのことはリスペクトするし、そのプロ意識をすごいと思うけれど、自分には無理。今の状態でいただける役ならば、もちろんやりますし、必然的に線の細い役はこなくなってきました。
── 10代の頃は、線の細い役が多かったですが、その反動もあるのでしょうか?
16歳の時に、『ひとつ屋根の下』というドラマで車椅子の優しい男の子の役をやりましたけれど、じつはその当時から結構ガッチリしていたんです。たしかに気が弱い男の子の役がよくくるなとは思っていましたけれど、特に嫌だと思ったこともないです。
── 先ほどから何度も名前が出てきている『RENT』ですが、山本さんは日本初演の’98年と、その翌年の再演にマーク役で出演。その後もやりたいと何度も話していましたが出演の機会に恵まれず、一昨年に日米合作という形で25年を経てようやく実現。ご自身にとってそれだけ大切な作品だったのだと思うのですが。
再演した後、もう一度やろうという話が持ち上がっていたんですが、権利の関係で叶わなくなって、自分の中では中途半端なところで終わっちゃった感覚だったんですよね。その後何年か上演の可能性を探っていた時期もありますがやっぱり難しくて、やるという選択肢を自分の中から排除して、他の作品をやってきたんです。その中にいい作品もいっぱいありましたけれど、なんか一歩届かない。『The Last Five Years』も『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』も『メンフィス』も、あの瞬間をもう一度という気持ちで取り組むんだけれど、『RENT』ほどには没頭することができませんでした。
── それほど思い入れのあった『RENT』を久しぶりに演じてみて、いかがでしたか?
初演の時と寸分違わぬ演出で、25年ぶりにもかかわらず、ついこの間みたいな不思議な感覚がありました。終わった時は喪失感がありましたけれど、思い残すことはないなとも思って。ただ、この先の作品選びが難しいなというのはありました。それまで『RENT』に対するもどかしい想いを抱えて戦ってきたのに、念願が叶って戦う必要がなくなったわけですから。『RENT』前と後では心持ちが全然違います。
── 俳優としては子役時代からずっと活躍されていますが、俳優業として本気度が上がったタイミングみたいなものはありますか?
それがまさに『RENT』だったんです。初演が20歳とか21歳だったから、俳優を仕事にしていくんだろうなとは思っていたけれど、「これがやりたい」という欲が何もなかったのが、『RENT』を経験して、自分はこういうことがやりたい人なんだとわかったというのかな。それ以降、どんな現場に行っても、なんだか自分がヌルく感じて、その頃の僕は周りから尖っているように見えたらしいです。『RENT』の後に三谷幸喜さんの『オケピ!』というミュージカルがあって、いま思えばすごく素敵なカンパニーだったのだけど、その時に三谷さんが、山本耕史は悪いヤツだって思ったらしいです。それが『新選組!』の土方歳三に繋がったんですけどね。
── その『RENT』を終えた今、どんな方向に進んでいこうとされているんでしょうか?
たぶん僕、『RENT』以外に興味がなかったんでしょうね。今、これをやりたいっていう欲がないんです。ただ、’23年に出演した音楽劇『浅草キッド』は、自分が俳優としてパフォーマンスするという意味で非常に腑に落ちた作品ではありました。舞台で演じる喜びがありました。古き良き時代の俳優さんの役って面白いんだなぁと思ったので、日本っていうテーマを掘り下げていくのもありかなとは思っています。
── ちなみに山本さんというと、香取さんや奥様など、難攻不落と思われる方の扉をこじ開けて仲良くなってゆく人のイメージもあります。難しいミッションをクリアしたい、みたいなことですか?
考えてみると、壁を作っている相手にそこまで踏み込んだのって、ふたりだけかもしれない。クリアするのが楽しいというより、それだけ興味をそそられる相手だったということ。僕にそこまでさせる相手の魅力なんでしょうね。
Profile
山本耕史
やまもと・こうじ 1976年10月31日生まれ、東京都出身。'87年にミュージカル『レ・ミゼラブル』で舞台デビュー。以降、数々の舞台やドラマ、映画に出演している。主な出演作に、大河ドラマ『新選組!』、ドラマ『きのう何食べた?』『陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~』など。10月より放送のドラマ『俺たちの箱根駅伝』に出演。
information
山本さん主演の日米合作ブロードウェイミュージカル『フル・モンティ』は、 8月19日(水)~9月7日(月)、東京国際フォーラ ム ホールCで上演。大阪公演もあり。失業中で、一人息子の教育費の支払いにも苦慮するジェリー(山本)は、ある日、女性たちが男性ストリップシ ョーに熱狂する姿を目にし、自分たちも上演しようと目論むが…。
anan 2507号(2026年8月5日発売)より






























