社会のじかん

堀潤の「社会のじかん」第468回:アテンション・エコノミー

ライフスタイル
2024.11.14

意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「アテンション・エコノミー」です。

「公共の利益」を考えて、責任を持って発信を!

アテンション・エコノミー(関心経済)は、情報があふれるなか、多くの人が関心を持ったり、注目を集めたりするものが経済的利益が大きいとする概念のこと。ネットでPV数を稼ぐために、関心を煽る見出しをつけたり、「インプレゾンビ」といわれるような、PV数を増やして収益を得ることを目的に作られたSNSアカウントが現れたり。どちらかというとネガティブな側面で語られることが目立ち、ネット社会特有の概念と思われるかもしれませんが、インターネットが登場する前にも似たようなことは起きていました。

その一例は関東大震災。火災旋風で、3万8000人が死亡したとされる墨田区の被服廠跡の写真が捏造だったことが近年判明しました。当時、報知新聞が被害状況を撮影し紙面に載せたのですが、「膨大な数の遺体の写真を掲載しては国民の不安を煽る」と警察当局から発禁処分を受けてしまいました。新聞各社が被災し、新聞を思うように出せなかった期間、被災状況を捏造した写真を絵葉書にして売り出す業者が現れ、その絵葉書が飛ぶように売れたのだそうです。怖いもの見たさの人々の「関心」が、フェイク画像を拡散させました。元共同通信社のカメラマン・沼田清さんが写真の捏造に気づくまで、公式の報道写真として、たくさんの場面で使用されていました。

アテンション・エコノミーの問題は、発信者が、その後の影響を考えずに無責任に発信していることです。最近は生成AIやSNSなど、簡単に偽の画像や情報が作れて出回る時代です。発信者も受け手もリテラシーを高めておかなければ振り回されてしまいます。一方、アテンション・エコノミーには、「SDGs」や「フェアトレード」など、無関心だった人に関心を植え付けるポジティブな側面もあります。

個人発信が可能なメディアが増えているからこそ、その発信が本当に社会にとって必要なのか、「公共の価値」を問い、共有する必要があります。あなたの自由な発信、関心を集めたいと思う行いが、もしかしたら不特定多数の誰かを苦しめることにつながっているかもしれない。そういう想像力は持っておきたいですね。

PROFILE プロフィール

堀 潤

ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。メインキャスターを務める報道情報番組『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。

写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

anan 2421号(2024年11月6日発売)より

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