他国に比べ非常に遅れた領域。性教育も見直して。
昨年11月末から、緊急避妊薬の販売が全国145か所の薬局で試験的に始まりました。現在、日本では医療機関の処方箋なしに緊急避妊薬を販売することは認められていません。将来的にそれを可能にするかどうかの調査を目的に、試験販売することになりました。購入できるのは厚生労働省が行う調査研究の参加に同意した16歳以上の女性。ただし、18歳未満の場合には保護者の同意、同伴が必要になります。
しかし、18歳未満の望まない妊娠の場合、そもそも親に相談できる状況にあるのだろうかという懸念があります。
薬の価格は7000~9000円程度。会社員ならば払えない額ではないかもしれませんが、緊急避妊薬が必要になるような性暴力被害の背景には、貧困や孤立の問題が多くあります。男女間で解決できずに、妊娠した女性が誰にも相談できずに一人で抱え込むケースも少なくありません。
緊急避妊薬は、性交後24時間以内に服用すれば95%の効果があるといわれています。48時間以内であれば85%、72時間以内であれば58%。高い確率で妊娠を防ぐためには急いで服用しなければなりません。性暴力を受けた場合には急いで服用しようとするでしょうが、性暴力被害は知人や肉親から繰り返し受けていることも多く、そうした場合、適切なタイミングで緊急避妊薬を手にするのは難しいかもしれません。
ちなみに、WHOは緊急避妊薬を医学的管理下に置く必要がない薬とし、国際産婦人科連合も、医師によるスクリーニングや後日のフォローアップは基本的に不要としています。
日本では、「緊急避妊薬が簡単に手に入れば、かえって望まない妊娠が増えるのでは」といった間違った認識や、「性の問題について明るいところで話すものではない」という古い考えが未だにあり、緊急避妊薬の薬局販売も世界の中では非常に遅れています。
性教育のあり方を見直す必要がありますし、性と生殖に関して自分で決める権利「リプロダクティブ・ライツ」の観点が重要だと思います。試験販売は3月末まで行われる予定ですが、本当に必要な人に届くのかなど、課題は山積みです。
ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~8:30)が放送中。
※『anan』2024年1月31日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)