人権と環境を守る。民主主義の良心が守られた結果に。
11月8日にアメリカ中間選挙が行われました。現職大統領の評価が問われ、与党は不利になることが多く、今回も共和党のイメージカラーである赤の「レッドウェーブ」が起きる(共和党圧勝)と予想されました。しかし、実際には上院は民主党と共和党が同数で、下院は共和党が多数になったものの、圧勝にはなりませんでした。
民主党の善戦に大きく影響したのは、人工妊娠中絶の問題です。50年近く「中絶は憲法で定められた女性の権利」とされていました。ところが、トランプ政権時に、アメリカの連邦最高裁判所は保守派の判事が多く占めることになり、その権利は覆されました。保守派は中絶に反対しており、保守の多い州では中絶を禁止、規制する動きが増え、人工妊娠中絶ができる病院が閉鎖したり、中絶薬を販売するだけでも違法になりかねない状況に。そんななか、今年の6月、オハイオ州の10歳の少女が性暴行の被害を受け妊娠、隣の州に行かなければ中絶手術を受けられなくなったことが社会問題化しました。
女性の権利を守ろうという論調に合わせる形で、民主党がある程度議席をとったのではないかといわれています。民主党は、環境問題にも積極的で、GX(グリーントランスフォーメーション)など、環境分野で産業を起こすことを明確に打ち出しています。今回は20代の若い世代の投票が目立ち、気候変動対策をここで終わらせてはいけないという思いが票に結びつきました。
さらにトランプ氏の出馬予想を受け(のちに出馬を表明)、共和党支持者のなかにも、トランプ化を防ぎたいという動きが影響したのではという意見も上がっています。
刹那的な富を求める資本主義というよりは、持続可能で誰もが幸福追求できる社会のあり方を政治は調整するべきだという主張が、素直に反映されました。「民主主義の良心」が守られたともいえる中間選挙だったと思います。
この直後にバイデン大統領は習近平国家主席と初対面しました。国民の支持を集めたバイデン大統領に、中国も真摯に向き合いました。世界情勢においても混乱を避け、やや安定のメッセージを示すことができたと思います。
ほり・じゅん ジャーナリスト。元NHKアナウンサー。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。Z世代と語る、報道・情報番組『堀潤モーニングFLAG』(TOKYO MX月~金曜7:00~)が放送中。
※『anan』2022年12月21日号より。写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子
(by anan編集部)