一見シンプルな(とびきりおいしそうな)タルトショコラを食べると、思いがけずコーヒーの深みへ引き込まれた。タルトのザクザク、コーヒーガナッシュのとろりに、シャリッとにぎわう食感はコーヒー豆入りのヘーゼルナッツプラリネ。噛むほどにコーヒーのアロマが湧き立ってくる。フルーティさもあるコーヒーを軸に、チョコとナッツ、3者それぞれの香ばしさや苦味、コクが互いの旨味を膨らませあう。なんだかとてもいい関係。
「自分の経験からできる一番おいしいものを作ろうと、今は素直に思います」と佐藤徹シェフ。名店『パティスリー パリセヴェイユ』のオープンから19年、スーシェフ(2番手)として金子美明(よしあき)シェフと歩んできた。大きすぎるその名前、実際にお客さんの期待も膨らむ中、「あえて『パリセヴェイユ』とは違うようにしなくてはとか、迷走もしました」。そこから少しずつ見出した、彼ならではのお菓子。ピスタチオのエクレアなら、クリームにもプラリネにもピスタチオを重ねてどこまでも濃厚に。そこにごろっと大胆に入るのはグレープフルーツのコンフィ。きゅんとくる甘酸っぱさとビターさが、ピスタチオの青臭さだけ抑えて芳しく、爽やかな後味を残していく。奇を衒わないフランス菓子なのに、そっとおいしいパンチが利いていて。どうにもまた恋しくなってしまう。
右手前から時計回りに、「タルト カフェ ノワゼット」¥600の中にはヘーゼルナッツジャンドゥージャのブリュレも。「エクレール ピスターシュ」¥620。「シューヴァニーユ」¥350。パイナップルのクリームと板状のココナッツプラリネを重ねた「ミルフイユ アナナス ココ」¥620は9月末頃まで。
BASCULE 神奈川県横浜市都筑区茅ケ崎中央22‐15‐1F TEL:045・482・4830 11:00 ~ 19:00(なくなり次第終了) 水曜休
チコ スイーツライター。大人気のガイド本『東京の本当においしいスイーツ探し』(ギャップ・ジャパン)シリーズ監修。
※『anan』2022年9月14日号より。写真・清水奈緒 スタイリスト・野崎未菜美 取材、文・chico
(by anan編集部)