飲食店は単に飲食を提供する場所じゃない。そのときその場でしか食べられない味や、店に集う人々との関わりを通して、孤独や疲れを癒し、胃袋から心まで健やかに満たすことができる。それは社会におけるコミュニティサービスの役割、もっというとインフラの一部でさえある。街に店があることの価値は大きい。そのことを日本橋のカフェベーカリー『Parklet』にいると強く思う。
店の目の前は公園だ。子供からお年寄り、犬、猫、鳥……様々な生き物が垣根なく往来し、その光景とパン屋が地続きで溶け合っていく。椅子にもなる切り株のようなテーブルでかじりつくのは、天然酵母のサワードウブレッドのトースト。このパン、表面はカリッと中はもちもち。ジューシーな食感はまるでステーキの食べ応え。酸味は穏やかで、誰でもきっとサワードウと仲良くなれる。お店は朝から夕方までの通し営業で、朝食にもランチにも(信頼ある農家さんから仕入れた野菜がたっぷり)、コーヒーでもワインでも(地球環境に配慮したコーヒーロースター『Overview Coffee』とナチュラルワインが揃ってます)、もちろんサクッとパンを買いに立ち寄るのもウェルカム。愛情と信念を持った作り手が集まり、店ができ、街が色づく。パンを軸にした食の場は、開かれた包容力と前向きな予感が眩しかった。
右上から時計回りに、チャイ(¥600)と定番のアボカドデュッカトースト(¥1,100)に、季節のトーストのクランベリーマスカルポーネとローズマリー(¥700)、カフェラテ(¥550)。『CIBI Tokyo』でヘッドベイカーを担った石井マロニ氏がヘッドシェフを務め、『Chez Panisse』で経験を積んだJerry Jaksich氏と「Tartine」グループでのマネジメント経験もあるKate Jaksich氏が料理とパンを監修している。
Parklet 東京都中央区日本橋小舟町14‐7‐1F TEL:なし 8:30~16:30 火・水曜休 詳細はインスタグラム(@parkletbakery)で。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。フードエッセイスト。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)など。
※『anan』2022年3月23日号より。写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子
(by anan編集部)