「新しい御馳走の発見は人類の幸福にとって天体の発見以上のものである」というのはあまりに手垢のついたブリア・サヴァランの名言だが、それでもやはり新しい味とその発見者の存在は尊い。昨今、“熟成肉”という美味を世に知らしめた『カルネヤ』の高山いさ己シェフが新たに生みだしたのは、にぼしのパスタだ。にぼし×パスタ…と聞けば、一見おかんの創作料理的な危うさを感じてしまうが、そこはプロ中のプロ。高山氏ならではの技術と論理によって完璧な味となる。そんなにぼしパスタ=通称にぼたんの専門店『シシニボタン』が日本橋にオープンしたのは10月末。食券機とカウンターから成る空間こそ見慣れた街のパスタ屋だが、そこで現れるにぼたんはあまりにオリジナルだ。
「にぼしは旨味の塊。チーズの感覚でパスタと和えたとき、これはいけると確信しました」と高山氏。にぼしフレークとバターが絡まり旨味が炸裂する太麺のパスタは、唯一無二の新しさと普遍的な美味しさを兼ね備えた最強の食べ物だ。更に特筆すべきは食べ終わりの軽やかさ。「ソースに柑橘を忍ばせています。にぼしの酸が分解されて、胃に重くならないんですよ」。あらゆる要因で胃にズシっとくるのがパスタランチの宿命だと思っていたのに、この後味はささやかな革命だ。にぼたんの登場以降、界隈企業の午後の生産性は軒並み上昇している。かもしれない。