
小説『ここはこどものいない国』の作者、武田綾乃さんにインタビュー。
自戒も込めて、伊藤の選択を描いています
もし子どもを産む必要性のない世の中になったら、女性は出産という選択肢を完全に手放すことができるのだろうか。武田綾乃さんが物語の舞台に定めたのは、今から200年後の日本。人間が工場で生産され、人口管理が可能になった社会では、ペットベイビー(PB)という手のかからない“愛玩赤ちゃん”が、犬や猫を抑えて人気となっている。
「どんなにかわいくてもペットと人間の子どもは明らかに違う。でもどこでそれを区別しているのだろうという疑問から、PBを発想しました。そもそも“子どもがほしい”という思いも、いろんな理由に細分化できますよね。自分の遺伝子を残したいのか、出産を経験したいのか、赤ちゃんを育ててみたいのか。体に負担をかけたり、キャリアを諦めたりすることのないかわいいだけの赤ちゃんがいたら歓迎されると思うのです」
PB生産工場で働く美奈子は、自然出産児という出自を隠している。母親から生まれ、手料理を食べるような人たちは、「自然派」と忌避されているからだ。そんな美奈子の職場に、幹部候補の伊藤という優秀な後輩がやってくる。劣等感を抱える美奈子と対照的に、工場出産児の伊藤は愛嬌があって妙になついてくる。そしてあるとき伊藤は、自分が妊娠していることを美奈子に告げる。
「工場出産が可能になったとしても、産みたい人はいると思うのです。良かれと思ってあげた声に、かき消されてしまう存在があることを常に意識しなければいけないという自戒も込めて、伊藤の選択を描いています」
“それでも産みたい”心境を描くにあたっては、2年前に出産した武田さん自身の経験も生かされている。
「難産で本当に大変だったのですが、生まれた赤ちゃんを抱っこした瞬間、もうひとりほしい! と思った自分に驚愕して。それを本能と呼ぶのかはわかりませんが、脳みそを乗っ取られたのかっていうくらい、思考や理性は関係なくなるんですよね」
出産に反対する美奈子が、伊藤にぶつける「周りに迷惑をかけてまで、なぜ産みたいのか」という問いが、現代に生きる私たちにも突き刺さる。
「同じような問いが子どもを工場で生産できる未来ではなく、今発せられていることがおかしいですよね」
子どものいない国はどう歪んでいくのか、この物語が見せてくれる。
Profile
武田綾乃
たけだ・あやの 2013年『今日、きみと息をする。』でデビュー。『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』がテレビアニメ化され、話題に。『愛されなくても別に』など著作多数。
information
『ここはこどものいない国』
2226年、人間が工場生産される日本。家族を捨てた集落育ちの美奈子が、家族に憧れる工場育ちの伊藤と出会い、命と向き合う成長物語。講談社 2475円
anan 2501号(2026年6月24日発売)より






























