松尾スズキ╳康本雅子対談 演劇界のレジェンドが初のダンス公演に挑戦する舞台『海辺の独裁者』

舞台『海辺の独裁者』にダンスユニット「スーパーマツヤス」として挑戦する、松尾スズキさんと康本雅子さんにインタビュー。本作への意気込みと、新ユニット結成に至った経緯を聞いた。


動きの面白い人にやっぱり惹かれますね(松尾)

作・演出を手がけたオリジナルミュージカルで菊田一夫演劇賞を受賞したばかりの松尾スズキさん。振付家・ダンサーの康本雅子さんと新ユニットを組み、ダンス公演に初挑戦する。自身が書いた短編小説を原作にした『海辺の独裁者』である。

松尾 ダンスユニット「スーパーマツヤス」です。

康本 松尾さんがいい名前を考えてくださいました。安いものがたくさん買えそう(笑)。

松尾 マーケットじゃないよ、SUPERだよ! 康本とは長い付き合いで振付家として僕の作品にしばしば関わってもらったけど、ダンス主体の舞台はやったことがなかった。

康本 松尾さんとの出会いは『キレイ―神様と待ち合わせした女―』の初演(2000年)です。当時はアンサンブルの一人だったので、緊張してほとんど話せませんでした。

松尾 康本の公演はいくつか観ているけど、とても愉快なダンス。歌やセリフが入っていたり、僕の作るショー的なものに近いものを感じて、合体させたら面白いんじゃないかなとずっと考えていたんです。

康本 稽古はこれからですが、今回は宮崎吐夢さんやよく知るダンサーの他に、「コクーン アクターズ スタジオ」(松尾さんが学長を務める、舞台俳優を総合的に育てる学校)出身の方など、初めてご一緒する方もいるので、みなさんの動きを見ながら作っていく予定です。松尾さんは私が振り付けない方が面白いから、お好きにやっていただけたら!

松尾 以前、康本にコーナーを一部演出してもらった『シブヤデマタアイマショウ』では、キレッキレのダンサーたちがカッコよく踊った後に一人、舞台に飛び出して踊らないといけなくて。あれは怖かったです。

康本 松尾さんだってキレキレでしたよ! 予測不能な動きでダンサーにはとてもできません。私、一緒に踊りたくないもの。お客さんは絶対松尾さんの方を見ちゃうから。

松尾 そんな…。今回は暗黒舞踏みたいな動きをしたいな。

康本 想像外のワードが飛び出しました(笑)。わかりました、考えます。松尾さんは人間の面白い動きに敏感ですよね。普段のお芝居にも身体的要素を感じます。なんでもない動作も、松尾さんが少し演出を加えると、役者さん本人から生まれたような独特な動きに変わるんです。

松尾 動きの面白い人にやっぱり惹かれますね。

康本 面白い動きって、本当は日常に溢れているはずだけど、みんな見逃しているんですよね。

松尾 僕はダンスを観るのは好きですが、クラシックバレエのような磨き上げられた動きには興味が湧かないんです。あと、ダンスに限らず美術でも、作家の意図を読み解くことを強いるようなものは好きじゃない。

康本 解釈を問うようなもの?

松尾 うん。面白がりたくて観に来ているのに、脳トレをさせられているような気持ちになって。ここではこの社会問題を表現している、とか。

康本 そういう作品もあっていいと思いますが、私も作るときにはそこはこだわりません。今回はやはり原作が軸になりますね。

松尾 僕の小説も、何かメッセージを込めているわけではないからね。ただ、「異邦人」や「南アメリカのムード」みたいなものが(ダンスから)現れてくるといいなと思います。

康本 放浪する女性の話ですもんね。

松尾 カフカの小説『アメリカ(失踪者)』へのオマージュも込めました。ドイツの少年が単身アメリカを放浪する話で、カフカはアメリカに行ったことがないのに想像で書いた。

康本 当時は今ほど外国の情報は入らなかったでしょうし、想像だけで書くなんて、面白いですね。

松尾 『海辺の独裁者』も僕の想像の中の南米です。肌に絡みつく暑さとか異国の空気を感じてもらえたら。

康本 劇場内の温度をマックスにしましょうか。汗をダラダラかきながら踊る。暑さでお客さんの感覚を麻痺させちゃうとか?(笑)

松尾 そんな不快なこと、絶対にやめてください!!

Profile

松尾スズキ

まつお・すずき 作家・演出家・俳優。1988年に「大人計画」を旗揚げ。2024年4月より「コクーン アクターズ スタジオ」学長を務める。シアターコクーン芸術監督を経てBunkamura顧問演出家に就任。

康本雅子

やすもと・まさこ 振付家、ダンサー。国内外での作品上演のほか、音楽、映像、アニメ、美術など異ジャンルとの共同作品や市民参加型公演の演出・振付も。4月に横浜赤レンガ倉庫1号館振付家に就任。

information

COCOON PRODUCTION 2026『海辺の独裁者』

6月27日(土)・28日(日) 渋谷・Bunkamura シアターコクーン 原作・監修/松尾スズキ 演出・振付/康本雅子 出演/松尾スズキ、康本雅子、鈴木春香、中村駿、阿部真理亜、水島晃太郎、羽衣、とねり、村井友映、倉元奎哉、宮崎吐夢 S席6500円 A席4500円 コクーンシート3000円 Bunkamuraチケットセンター TEL. 03-3477-9999(10:00~15:00) チケットサイト

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写真・土佐麻理子 取材、文・黒瀬朋子

anan 2500号(2026年6月17日発売)より
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No.2500掲載

王道エンタメの矜持

2026年06月17日発売

55年間ときめきを追いかけ続けてきたananがこのメモリアルな号で特集するのは“王道エンタメ”。市川團十郎さん、反町隆史さん、辻村深月さんなど、それぞれの世界で王道を歩んで来られた方々のインタビューを通して、各ジャンルにとっての王道とは何かを探ります。

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