社会派群像ドラマに、映画の力を再認識。映画『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』

Ⓒ 2025 Refugee The Film.LLC

6月19日より全国順次公開の映画『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』の見どころを紹介。


5つの章で描かれる、親子の物語

多くの人が難民とならざるをえない過酷な現実は、ニュースで知っているつもりだ。でも、往々にして私たちはそれをたんなる数字や情報として捉えがち。映画にはそれらをリアルに息づかせて、世界の現実に目を向けさせる力がある。

シリア内戦のさなか、1400万人もの人々が国内外への避難を余儀なくされた現実から着想を得た『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』は、そのことに改めて気づかせてくれる作品だ。しかも映画としての語り口がめちゃくちゃかっこいい。それはきっと、観客を没入させることこそが、世界の関心をこの問題に向けさせると、ブラント・アンダーセン監督がわかっているからだろう。

物語のはじまりは、アメリカ。病院で勤務中のアミラのスマホ画面には、「ママの誕生日」と表示されるものの、彼女は遠い目をする。なぜか? アミラがシリアでの8年前の誕生日に思いを馳せるなか、その理由が明かされていくんですよ。シリアの病院で医師として敵味方の区別なく負傷者の治療にあたっていたアミラは、その日、爆撃に遭い、両親ら家族を失ってしまう。自分の誕生日が悲劇の日となるなか、生き残った娘と共に平和と自由を求めて国外への脱出を決意するのですが…。

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アミラの視点から始まった決死の脱出劇は、ここから視点を変えながら、「医師」「兵士」「密航業者」「詩人」「船長」という5つの章で語られていく。冷酷な上官の指揮に疑問を抱き、政府への不信感が芽生え始める兵士ムスタファ。ボートに乗せた難民がどうなろうと無関係という悪辣な密航業者マルワン。妻子と共に密航ボートに乗り込もうとする詩人ファティ。そして、ギリシャの沿岸警備隊の船長スタヴロス。見知らぬ者同士だった5人の運命が重なり、ひとつに収束していく脱出劇は、手持ちカメラの映像とあいまって、まるで自分がそこにいるかのような臨場感。しかも、それぞれの章のラストにはとてつもない緊張感が張り詰めていて、どんどんサスペンスを盛り上げていく。

アンダーセンは、これが長編初監督作だけれど、マーティン・スコセッシ監督作『沈黙―サイレンス―』などを手掛けたプロデューサーでもある。なにより難民支援を続けていて、この映画に登場する物語はすべて、彼自身が難民から直接聞いた経験から生まれている。そうして誕生した『Refugee』(’20)はアカデミー賞短編実写映画賞のショートリスト入りし、その短編をもとに製作されたのが本作だ。アミラ役のヤスミン・アル・マスリーと、マルワン役のオマール・シーが、短編でも同じ役を演じていると聞くと、そちらも観てみたくなるじゃありませんか。

5つの章はどれも親子の物語でもある。葛藤を抱える兵士にも親がいて、密航業者にも大切な息子がいる。過酷な状況の中でも生まれる善意とともに、親として子供として愛する人を守りたいという想いが、彼らをリアルな存在に感じさせてくれて、こちらの感情も翻弄されまくり。

国外へ脱出した人々が新天地で向き合う現実を穏やかなトーンで映し出しながら、社会はどう変わるべきかまで考えずにいられないラストの余韻もたまらない。この一作で、アンダーセンが好きな監督になるはず。

information

『アイ・ワズ・ア・ストレンジャー』

監督・脚本/ブラント・アンダーセン 出演/オマール・シー、ヤスミン・アル・マスリー、ジアド・バクリ、ヤヤ・マヘイニ、コンスタンティン・マルクーラキスほか

6月19日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。

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文・杉谷伸子

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