東西を代表する新進気鋭の落語家、桂二葉と春風亭一花が、落語を語る

今、東西で注目の落語家として引っ張りだこの桂二葉さんと春風亭一花さんは、互いを「ねえさん」「一花さん」と呼び合う朗らかな関係性。今では笑いで寄席を揺らす二人も、初めて落語を聴いた時は「あまりよくわからなかった」のだとか。寄席の楽しみ方から二人が目指す未来の姿まで、抱腹絶倒のトークをお楽しみください。


Profile

桂二葉

かつら・によう 1986年8月2日生まれ、大阪府出身。桂米二に入門。2021年「令和3年度NHK新人落語大賞」受賞。『探偵!ナイトスクープ』(ABCテレビ)に出演。大阪・天満天神繁昌亭「深夜寄席」をプロデュース。

春風亭一花

しゅんぷうてい・いちはな 1987年1月26日生まれ、東京都出身。春風亭一朝に入門。2025年「令和7年度NHK新人落語大賞」受賞。今年秋、真打に昇進。9月から12月にかけて、真打昇進披露興行が行われる。Ⓒ橘蓮二

── まずは、お二人の出会いを教えてください。

二葉 大阪に落語会の企画プロデュースをされている吉田食堂さんという方がいてて。「一花さんと二葉さんの二人で会をやったらどう?」というお客さんの声を受けて、ブッキングしてくれたのがきっかけです。一花さんはとにかく落語がうまい。あと、落語に対する考え方の方向性がすごく似ていて、芸風は違えど、聴いていて気持ちが良かったし、急に親友ができたみたいでした。

一花 ねえさん(二葉さん)は、 “こういうふうにやれたら”という私の理想を体現していて。初めて落語を観た時は興奮、感動しました。桂二葉は自然体。これが結構、難しいことなんです。気がついたら目で追っていて噺の中に入り込み、一緒に喜怒哀楽ができる。

二葉 目の前のお客さんに心から共感していただけることが嬉しいし、目指しているところです。

一花 そして、私に「落語がうまい」と言ってくれていたのはねえさん…(笑)。

二葉 みんな気づいてはらへんねん。お水みたいにすーっと体に入ってくる。生活に馴染んだ、体と心に優しい落語。毎日食べたい食パンみたいやなぁと、私は思っています。

── 先ほど二葉さんが「落語に対する考え方が似ている」と話していました。共通点も多いですか?

一花 落語をする上で大事にしていることがすごく似ています。私たちはよく、女性だからということで、「男の人が噺に出てくることが多いからやりにくくない?」と言われることが多いですけど、それを疑問に思うところとか。

二葉 そういうことちゃうねん、と。私らは、噺に出てくる人がどういう人なのかということをすごく大切に思って心から喋っているから、男やから、女やからとかってあんまり思ってやってない。もちろん、技術的な面での違いはありますよ。たとえば、物知りな町のおっちゃんをすごく高い声でやると、お客さんに噺に入ってもらいにくいから、ワントーン落としてゆっくりと喋るとか。

── 女性の落語家も、だんだんと増えてきています。

一花 一人目の女性は大変だったでしょうね。想像がつかないです。

二葉 私らが普通に落語をやれているのは、先輩方がいてくれはったからやんなぁ。女性はまだまだ少ないけど、ごく当たり前にしていきたいという気持ちがあります。メディアとかで「女性落語家」と書かれるのも嫌なんですよね。たしかに “女性の落語家”ではあるけど、そう書かれると何か二流やと思われている感じがして。

一花 やっぱり、落語家と一括りにしてほしいですね。

二葉 あと、最近気づいた共通点でいうと、私らは噺に出てくる人を、キャラクターとしてやっていないこと。たとえば、 “アホな人をやる”のではなく、出てくる人たちが繰り広げる対話の中で “アホな人が浮かび上がってくる”ようにやりたい。キャラを演じようとしてやると、噺が薄っぺらくなる。アホはアホなりに、いろいろ考えて話していますから。

一花 その人の道理が見えてくると、伝わるものが違ってきます。

二葉 自分がその人や噺の中にグーッと入るためにも、言葉一つとっても、常に自分がしっくりくるものを探し求めています。

一花 ねえさんは、噺の中に伝えたいものがある人だと思っていて。そして、たとえ同じ噺でも、その伝えたいものが出てくる場所が、日によって違うのが面白いです。

二葉 その時の気持ちで喋ってるから。私みたいなタイプもおれば、毎回同じところで出す人もおる。いろんなタイプがいて全部正解。

一花 表情も含めてよくわからないけど笑っちゃうとか、情景が見えてきて面白いとか、本当にいろいろな笑いの形がありますね。

── 落語に対して、難しいとか格式が高いという印象を持っている人も、まだ少なくありません。

二葉 これも私らの共通点ですけど、最初に落語を聴いた時に全然わからんかったんです(笑)。右向いて左向いて喋ってるし、どこで笑ったらいいのかわからない。変な顔をしはった時しか笑われへんかったんです。

一花 落語って、聴いていると、ある時途端に聴けるようになるというか、噺の中に入れるようになる瞬間があるんです。すると、ものすごい広がり方をするし、ハマれるのかなと。本を楽しむ感覚と似ている気がします。

二葉 私らは二人とも落語がわからへん人の気持ちがわかるから、たぶんやさしい落語をしてると思います。

── 最初はわからなかった落語を聴き続けたのはなぜですか?

二葉 わかりたいと思ったから。生で落語を観た瞬間、これやなと感じて、落語家になりたいなと。

一花 私は寄席でしたが、ワンカップを持った、すごいやる気のないおじさんが隣に座っていて。ある瞬間、おじさんと一緒に笑ったんですよ。その時に、ものすごい幸福感に包まれて。なんて面白い場所なんだろうと惹かれて、その後、師匠に弟子入りしました。

二葉 お風呂屋さんに行って知らん人と裸で一緒のお風呂に入るとか、立ち飲み屋で知らんおっさんと同じテレビ見るとか、そんな感じやんな。

── お二人は古典落語をやっていらっしゃいますが、面白さや魅力を教えてください。

一花 古典落語には、今でいうとコンプライアンス的にありえないこととか人が出てくるんです。たとえば、イライラすると母親を殴る蹴るする男が主人公の「天災」とか。現代ではとうてい理解されない内容であると同時に、人間の根本にあるものや、ずっと変わらない心も描かれていて。私は、そうした核を探す作業が好きで、面白さをうまく残しながら古典落語を話すのが楽しいです。昔と現代の橋渡しじゃないですけど。

二葉 あんまり綺麗事がなくて、生きてる人間がいてるというか、庶民のリアリティや生き様があると思います。噺に出てくる人の醜い心や優しい心、いろんな登場人物に自分をチューニングしながら共感していただけたらええよなぁ。

── 二葉さんは上方落語、一花さんは江戸落語です。

二葉 一花さんがいるのにすいません、古典落語の面白いやつは、ほとんどが元は上方の噺です!

一花 クソ〜! はい、輸入しています(笑)。

二葉 「時そば」が有名やけど、もともとは「時うどん」! でも、私も江戸の「粗忽長屋」をやらしてもらっているし、そこはもう自由になっていて。

一花 お互いに、ですよね。でも、 “これは上方の噺だな〜”とか違いを感じるのも面白いところ。

二葉 やっぱり、それぞれの土地の匂いがあるよなぁ。

一花 上方のほうが言葉が柔らかいですね。江戸弁って結構きつくて、「死ね」とか使いますから。師匠方も「くたばれ」とまろやかにしますけど。

二葉 東京の人って「死ね」って言うよな。結構、傷つくんやけど。

── 上方では、「死ね」を何と表現するのですか?

二葉 「いにさらせ」?

── それもそれで怖いです(笑)。

二葉&一花 あははは。

── 最後に目標を教えてください。

二葉 まずは、落語を面白いと思ってくれはる人が増えてほしい。

一花 落語は仕込みと回収までに時間がかかって長く感じますが、今は短いコンテンツが多いじゃないですか。同世代の方にもっと聴いてもらいたいですね。と言いつつ、先輩方からは「落語は30年周期で流行り廃りを繰り返している」と聞きます。それでいいとも思っていて。流行ってほしいけれど、私たちだけが知っている喜びみたいなものもあるんですよね。

二葉 それはある。寄席を知ってる私、イケてるぜ、みたいな。

一花 私はねえさんが始めた繁昌亭でやっている「深夜寄席」もすごくいいと思う。

二葉 今は情報の社会やけど、それだけでは救われへんというか。落語を聴きにきてもらって、非日常に没入していただけたらええなと思ってます。自分の目標としては、のびのびと落語をすること。

一花 最高ですね。私は面白い、ちょっと間の抜けたおばあちゃんになりたいです。おばあちゃんの落語家になって、出てきた時に “このばあさん大丈夫か?”と思われて、終わったあとに “面白かったな”となったらいいなと。

二葉 私も似てるかも。 “このババア、どうやって死んでいくんかな?”と思われたい。面白いやん。

一花 間違いないです(笑)。

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写真・内山めぐみ 取材、文・重信 綾

anan 2500号(2026年6月17日発売)より
Check!

No.2500掲載

王道エンタメの矜持

2026年06月17日発売

55年間ときめきを追いかけ続けてきたananがこのメモリアルな号で特集するのは“王道エンタメ”。市川團十郎さん、反町隆史さん、辻村深月さんなど、それぞれの世界で王道を歩んで来られた方々のインタビューを通して、各ジャンルにとっての王道とは何かを探ります。

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