戦渦の中、究極の愛を奏でる名作。ミュージカル『ミス・サイゴン』 2026の肖像

観る者に衝撃と感動を与え、ミュージカル史に燦然と輝く不朽の名作といえば、必ずと言っていいほど名の挙がる『ミス・サイゴン』が今秋、4年ぶりの再演を迎えます。作品解説とキャストインタビューにより、我々を惹きつけてやまない本作の魅力に迫ります。

Index

    『レ・ミゼラブル』のチームが再集結し製作した大作

    ミュージカル『ミス・サイゴン』は、イギリスの名プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュをはじめ、作詞にアラン・ブーブリル、作曲にクロード=ミッシェル・シェーンベルクという、『レ・ミゼラブル』のチームが再集結し製作されたもの。1989年にロンドンで初演され、深いテーマ性と哀切なストーリー、そしてなにより魅力的な楽曲で大ヒット。日本でも、’92年に帝国劇場で初演されて以降、何度も再演されている人気作だ。本作の創作の発端になったのは、ベトナム人の母親が、アメリカ兵との間に生まれた我が子を、涙をこらえてアメリカへと送り出そうとする一枚の写真。そこにプッチーニのオペラ『蝶々夫人』の物語を重ね合わせ、戦争に翻弄された男女の悲恋を軸に、親子の深い愛や、人間のしたたかさと強さなどが多角的に描かれている。今回の日本公演では、全キャストフルオーディション。多くの新キャストを迎える上演に注目が集まっている。

    ミュージカル『ミス・サイゴン』 の魅力を解き明かす

    ロンドンでの初演から35年以上、日本のみならず世界中で愛され続けている本作。多くの観客の心をとらえてはなさない作品の見どころと、その魅力を解説します。

    ポイント1|ベトナム戦争を背景とした抒情的なストーリー

    アメリカ軍の撤退後3年。ホーチミンと名を変えたサイゴンで、解放を祝う周年パレードがおこなわれる。ドラゴンダンサーの迫力あるアクロバットに注目。

    戦争で家族を亡くしたベトナム人少女・キムが、娼婦として出会ったアメリカ兵のクリスと恋に落ちながら、サイゴン陥落の混乱で引き裂かれ、やがて悲劇をまねく。物語の主軸は悲恋だが、本作では、戦争による悲劇がさまざまな形で描かれる。爆撃で故郷も両親も失ったキム。戦争に翻弄されながら貪欲に夢を求め続けるキャバレーの主人エンジニア。国のために戦ったはずが、帰国後にトラウマに苦しむクリス。そして、戦争が出会わせ、産み落とされた子どもたち。重層的に描かれる人間模様が想像力を掻き立て、感動を呼ぶ。

    ポイント2|人を想う気持ちの強さが胸を打つ楽曲の数々

    サイゴン陥落後、クリスの子・タムと共に難民キャンプに身を寄せるキム。名曲「命をあげよう」が歌われる。

    キムがクリスとの子ども・タムの未来を想って歌う「命をあげよう」や、エンジニアが自らの境遇から抜け出しアメリカで成功する夢を歌う「アメリカン・ドリーム」など、『ミス・サイゴン』には、ミュージカル史に輝く名曲がちりばめられている。これらの楽曲を手がけたのが、『レ・ミゼラブル』と同じブーブリル&シェーンベルクのコンビだと聞けば納得。登場人物たちの心情を丁寧に綴り自然と物語に引き込まれるうえ、印象的な旋律が多く耳に残る。曲の中に、アジア的な音が多数取り入れられているのも面白い。

    ポイント3|人々を引き裂く戦争&激動の時代を表現したダンスと演出

    エンジニアは、アメリカ人との間にできた子であるタムを足がかりにアメリカ行きの切符を手に入れようと、キム親子が生き延びるための手助けを名乗り出る。

    キャバレー「ドリームランド」での、アメリカ兵とベトナム人女性たちとの猥雑で賑やかなシーンから始まる本作。エンジニアの「アメリカン・ドリーム」では、タイトル通りエンターテインメントの頂点を思わせる妄想シーンがあったり、サイゴン解放後の祝賀に沸くホーチミンの場面ではアクロバットダンスが披露されるなど、戦争をモチーフにしながらも、華やかで見応えのあるシーンもたっぷり。サイゴン陥落直後の混乱するアメリカ大使館の場面では、兵士たちを帰国させるヘリコプターが舞台に登場するのも見どころだ。

    過去にはこんなレジェンドも出演!

    '92年の初演には、キム役として故・本田美奈子さんが出演。エンジニア役の市村正親さんは、'22年まで同役を演じた。

    information

    ミュージカル『ミス・サイゴン』

    10月23日(金)~11月29日(日)東京・東急シアターオーブ オリジナルプロデューサー/キャメロン・マッキントッシュ 作/アラン・ブーブリル、クロード=ミッシェル・シェーンベルク 製作:東宝 プレビュー公演、大阪、福岡、静岡、北海道公演あり。

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    取材、文・望月リサ 写真提供・東宝演劇部 撮影協力・バックグラウンズ ファクトリー

    anan 2500号(2026年6月17日発売)より
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    No.2500掲載

    王道エンタメの矜持

    2026年06月17日発売

    55年間ときめきを追いかけ続けてきたananがこのメモリアルな号で特集するのは“王道エンタメ”。市川團十郎さん、反町隆史さん、辻村深月さんなど、それぞれの世界で王道を歩んで来られた方々のインタビューを通して、各ジャンルにとっての王道とは何かを探ります。

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