影山優佳「ウチらって、美しいからサ」|anan創作連載シリーズ

いま注目の文筆家のエッセイ、小説などの創作を4号続けて掲載。今回は2497号(2026年5月26日発売)から、影山優佳さんのエッセイ連載 第3回「ウチらって、美しいからサ」をお届けします。


「デブス」

夏の大三角を構成する星でも、どこかにいそうな神の名でもない。

「親にも言われたことないのに!」と言いたくなるほどの中傷は、中学生の私にはあまりにも刺激的なフレーズだった。

アイドルとは性別と年齢、そして当然の如く外見によって価値が生まれる。

24時間365日、どこを切り取っても「見られること」が前提の世界で、私は自分の輪郭をどんどん削ぎ落とさなければならなかった。

全身鏡の前に立つ。なんとも丸いお顔。筋肉質な身体。

この私がアイドルのかわいらしいお洋服をスタイル良く着こなすにはと思案する。

一番の心当たり、自らのふくらはぎを雑巾絞りのようにつねってみる。

もりもり蓄えられた筋肉の上にへばりつくように脂肪がいる。筋肉だけならば運動量を減らしたり無酸素運動を減らしたりすればいいし、脂肪だけならとにかく有酸素で消費すればいい。ただ私の場合どちらもたっぷりと蓄えてしまっているから厄介である。厄介ながら、私が実行したのは実にシンプルなプランだった。

それは、なるべく動かず、何も食べず、身体から全てを消し去ればいい、ということだ。

消しゴムで自分の形を少しずつ削っていくような感覚で、日々を過ごした。

不思議なことに、自分が誰かから愛されるために必要な痛みは、全く苦痛ではなかった。

この世には、恐ろしい魔法が存在するものだ。

みるみるうちに数字が落ちていく。身体中の脂肪と筋肉が落ちて、テレビや生写真で見かけた憧れのアイドルのシルエットに近づいていく。

いろんな人に「痩せた?」「かわいくなった?」と言われる。全ての言葉が嬉しくて、世界が私の努力を認めてくれているような感覚になった。

 

ところがある日の体重測定で事件が起こった。

私の数字を見たマネージャーさんが「もうこれ以上痩せるのはやめてくれ」と言った。

ズコー、である。

あんだけ求められたのに、怒られたのに、褒められたのに。みんなの期待通りの私に、なったはずでしょう?

私が必死に追い求めていたゴールは、もうとっくに通り過ぎた後だったらしい。

私たちの住む世界は、取り巻く環境は、いつから「正確に」「ズレる」ようになったのか。

スマートフォンが普及し、SNSが日常のお披露目の場となっている。

美の基準はいいねの数によって可視化され、定量化され、拡散されるようになった。

指標ができたことで、マジョリティによって決められた美しさは誰でもお金と時間があれば目指せるものとなった。「美」は唯一無二ではない、消費されて当然のコンテンツへと変質していった。

細さ、若さ、清潔感、かわいらしさ。

日本における「女性の美」への規範は、戦後の高度経済成長期以降、広く深く文化の礎となってきた。女性向け雑誌が中心となって生み出した記号は、やがてテレビが全国的に強化し、みんなが同じ髪型をしたり同じアイテムを身につけたりする流行が生まれた。ただこれらの流行が今と異なるところは、「私が好きだからやっている」という意識と、自分のために自分を着飾る意識が強いことだと思う。

ところが一方現代社会はというと、SNSの普及により情報が即時的に届く。即時的すぎて編集や意図が含まれていてもそれに気づきにくい。たった今必要とされているかどうかが明確にわかるからこそ、人から必要とされる自分に憧れる。他者から外見を評価されることを常に意識する「自己客体化」が進み、自分の心身をおめかしするというよりは誰かの価値観に似合う自分にするという意識が強まっていると感じる。そうして自身を見られる“物”として管理する思考が強くなることで「消費されて当然の人間である」と自己肯定感の低下や過度な自己制限のリスクも上がっているのではないだろうか。

私は「消費される美しさ」の中で生きる。見られ、評価され、期限を迎えた頃に肩を叩かれる。

周囲から急かされる前に先回りして老いに抗っていったり、新しい道を探す人が、「気の利く」人であると褒められる。居座ろうとする人に対しては、あなたの代わりはいくらでもいると言わんばかりに図々しさを一斉に咎める。

私の代わりはいつだって私だ。

ボディ・ポジティビティの潮流は、多様な体型をありのままで肯定しようとする。だが同時に「ありのまま」を美しく見せるための新たなパッケージが生まれ、肯定すること自体が「痩せていれば痩せているほど美しい」という思想を持ったコミュニティの存在を明確にしてしまっているという皮肉も拭えない。

大切なのは、私の心に問うことだ。

「私は、どんな私でいたいの?」と。

中学生という人格形成期に、自己肯定感と体型を結びつけてしまってから早10年。

少しずつ、ようやく、解けてきた。 消費カロリーが摂取カロリーを自然に上回るように計算して、大好きな運動を赴くままに取り入れて、ストレスをなるべく削ぎ落としたボディコントロールを心掛けられ始めている。

ダイエットを行うべきかどうかを判断する基準も、自分の中でだいぶ緩やかになった。

女性らしい丸々しさや愛くるしさを「輝かしく素敵」だと思えるようになってきた。

これから歳を重ねていくなかで、年齢という基準だけで言えば、みずみずしい代わりはいくらでもいる。

これからは、「人間的な旬」に重心を移したい。

そしてそのマインドは今から始めたって遅くはない。

消費される美しさに甘えられる期間はどっぷりと甘え、余裕があれば別の私らしさを育てる時間として使う。余裕がなければ、その後の切り替えを重視したい。

美しさとはなにか。

内面的な美しさは人相や醸し出す雰囲気に現れる。例えば、面白い人の表情はなんとも愉快だ。愛情のある人の目は、柔らかい。誠実な人の声には、どこかコシがある。これは精神論ではなく、行動心理学でいう「非言語コミュニケーション」の領域でもある。表情筋の使い方、視線の向け方、声のトーン。それらは意識と無意識(存在、生き様)の両方から滲み出る。表面的な魅力よりも長く深く人の記憶に残るのは、切ってみた時の断面とあふれる果汁の方であると私は思う。年輪や皺が、見る者の心に刻まれていくように。

類は友を呼ぶ。どんな美意識を持って生きるかが、どんな人を引き寄せるかを決める。みせかけを競う場所に立ち続ければ、それを競う者たちが集まってくる。自身を育てることに時間を使えば、同じく内側を大切にしている人たちと出会いやすくなる。私を取り巻く環境が変化し、影響を受けて私もまた進化する。自らの身の置き所を選んでいくことができるようになるために、私たちは学び、諦め、そして信じていくのだ。

私を傷つけてきた数々の言葉が、今でも耳元で呼び起こされることがある。だがそれらはもう私を傷つけるものではない。あの頃の私が「見てもらいたかったのに、見てもらえなかった」と思っていた寂しさと、あの頃から変化した現状に気づかせてくれている。私は耳の中を辿り、頭の中に息を潜めるその子の頭を撫でて、「今はもうちょっとうまくやれてるよ」と慰める。

 

サボテンをも枯らすほど面倒見の悪い私が、美しい花を育てている。

そんな余生も悪くない。

そんな花が私に囁く。

「私は、大好きなあなたの、世界に占める質量が減ってしまうことを、悲しく思うよ」と。

影山さんの連載第4回は、6月3日(水)発売の『anan』2498号に掲載!

information

2026年6月3日発売のanan 2498号の特集は「お金の教科書 2026」。物価高が暮らしを直撃し何かと不安の多い昨今。将来のために、家計の見直しや節約から、増やす技術まで、賢くお金と付き合う方法を一から学ぶ特集です。

今回の表紙は、映画『おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』とスペシャルコラボが実現。Aぇ! group、草間リチャード敬太さん、西村拓哉さんの6人で表紙&グラビアを飾り、ロックテイストで超絶かっこいい「クールver.」と、6人が松野家の6つ子に扮した「ニートver.」の2パターンでお届けします。

CLOSE UPにはソロデビューを発表したHOKUTO(吉野北人)さん、配信ドラマ『クロエマ』で共演する杉咲花さんと多部未華子さん、MAZZEL のNAOYAさん・HAYATOさんが登場します。

※ anan 2498号は、通常版とスペシャルエディション同日発売。特集内容は同一です。

通常版(クールver.)

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スペシャルエディション(ニートver.)

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Profile

影山優佳

かげやま・ゆうか 2001年5月8日生まれ、東京都出身。2023年に日向坂46を卒業。最近の出演作にドラマ『シナントロープ』、『未来予測反省会』など。テレビ東京系『バカリズムのちょっとバカりハカってみた!』、日本テレビ『ウェル美とネス子。』に出演中。今年7月に初のエッセイ集を発売予定。

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イラスト・Naffy

anan 2497号(2026年5月26日発売)より
Check!

No.2497掲載

ときめきカルチャー 2026

2026年05月27日発売

今、胸をキュンとときめかせるモノ・コト・ヒトの最前線を集めた特集。ぷくっとしたプラバンの素材感に魅了される、話題のストップモーションアニメや白熱のオーディションコンテンツなどをピックアップ。それぞれの魅力に迫ります。

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