
いま注目の文筆家のエッセイ、小説などの創作を4号続けて掲載。今回は2495号(2026年5月13日発売)から、影山優佳さんのエッセイ連載 第1回「ハッシュタグ」をお届けします。
先日、こちらの連載の担当編集の方に「ハッシュタグが多い」と言われた。
いまこの文章を読んで、どきっとしていらっしゃるのではないだろうか、などとワクワクする。幸せな話だからである。
「ハッシュタグ」というのは趣味だったりよく話せる話題であったり、本人と紐づけられるトピックのことであろう。その時はハッシュタグを共通言語としてさも認識している顔をしてしまったが、おそらく、影山優佳と紐づけられるテーマが多いから企画を立てやすい的なことをおっしゃっていたのであろう。嬉しい。嬉しそうにありがとうございますと伝えておいてよかった。
器用貧乏とは、私の辞書に4回ほど出てくる言葉だ。該当ページを読んでみると、「一つのことを極められず、何でもそれなりにこなしてる風の人のこと」とある。私にぴったりのレッテルだ。
私の人生は生まれたその瞬間か、生まれる前までがピークだった。
“よくいる神童”というのもなかなか皮肉な話だが、両親の期待を存分に背負う、そのうち未来を変えていくであろう子供だった。
小学生になっても、勉強も運動もとびきり上等だった。足が速いとモテるというのが男子に限った話であることがなんとも悔しくて、体力テストでも勉強でも一番を取って、彼らにいい顔をさせないという、それくらいのことしかできなかった。
でも「それくらいのこと」は、周りにとってそれくらいのことではなかったらしい。ある日、クラスメイトに言われた。「あなたのせいでリレー選手になれなかった」と。私は思った。「じゃあ1位になればいいのでは?」と。
いま書いていて、我ながら思う。やばすぎる。こんな子供を育てていて我が親はどう思っていたのだろう。蛙の子はサイコパスだと戦慄したに違いない。本当に申し訳ない。強い奴に強いアピールをされて、良い気持ちになる人なんてこの世に1人もいない。味方になってくれたのは校長先生くらいで、それがまた敵を作った。
でも本当にそれしか思い浮かばなかった。目標が生まれたのなら努力して追い越したり達成したりすればいい。それが人生では? と。当然のように嫌われた。そしてそれに対しても、私は同じように不可解に思っていた。なぜ殴ってこない? 正面からぶつかれないから、あの手この手を繰り出してくるのか? と。私には、競争の外側にある感情というものが理解できていなかった。悪意のない鈍感さというのは、時として悪意よりも人を傷つける。それを知ったのは、教室のゴミ箱から筆箱を見つけた時だった。
受験勉強をして中学に入ると、バケモノ級の天才がゴロゴロといた。人を下げたりひけらかしたり、意味のないことはしない人たちばかりのユートピア。
世界の広さを知るうちに私の自己評価基準が次々と改訂されていった。気づけば、私にはとびきり秀でているものが何だったかわからなくなっていった。
私はいつも好奇心だけは旺盛で、何事にも興味を持って、できるできないに関係なくとりあえずやってみる癖がある。両親の身体能力の高さを受け継ぎ、だいたいのことは一発で、そつなくこなせるようになる。でも「ある程度」で止まり、一番にはなれない。
厄介なのは、一番に手が届きそうになった瞬間に、自分がそれを避けてしまうということだ。
なぜ避けるのかというと、おそらく、一番になりきれないことをどこかで勘づいてしまうからだと思う。一番になれないなら、一番を争うフィールドに立たなければいい。そういう無意識の計算が、いつのまにか私の生き方として染み込んでいた。それなりの努力をして、忙しさや身体の弱さを言い訳にして、「まだ本気出してないだけ」。大黒シズオばりの逃げ道を温存させて生きてきた。本気を出さないでいれば、負けたことにならない。後出しジャンケン以下の話だ。
そんな私の思春期、ずっとずっと一番羨ましかったのは弟だった。
弟はサッカー一筋だった。
他のことにはあまり興味を示さず、ただひたすら自分と向き合って、サッカーが上手くなるように努力し続けた。
弟の小学校はサッカーに力を入れている世にも珍しい学校で、学期ごとにリフティングの測定があった。弟は数百、数千と話を聞くたびにみるみる回数を増やし、ある時には2、3限目までぶっ通してリフティングしていたということもあった気がする。その時間の科目の先生はどんな気持ちだったんだろうか。クラブの大事な試合で負けて帰ってきた日も、監督に理不尽に怒られた日も、その日のうちに河川敷へと出かけてボールを追いかけていた。彼の影響で我が地区のサッカーボールは数ミリすり減ってもはやフットサルボールになっていたと思う。
上手くいかない時期も沢山あっただろうし、才能の限界を感じることだってあったはずだ。それでも彼はそこから逃げなかった。一つのことを選んで、自分で握ることにしたその選択に責任を持ち続けた。
かくいう私がサッカーを始めたのも、弟が両親や友人にちやほやされていてかっこよかったからである。
だが私は弟じゃなかった。
集中力も自律の心もない。嫉妬心を捨て去って、広く浅くやれる自分を器用で柔軟だと言い聞かせるしかなかった。ひとつのことに己のすべてをかけて、それで報われなかった時の自分が、想像できなかった。ずっとずっと、弟は私の英雄である。
褒められるために、私は総合力を高めていくことにした。シフトチェンジの判断はかなり早くて、その点においては褒めてつかわそう。
平均点を高く保てば、誰かに何かを褒めてもらえる確率が上がる。5番勝負となった時に勝ち越しやすい。なんでもできていいねと言ってもらえる。その瞬間は嬉しく受け取っていたが、積み上げた結果として、自分には秀でているものが何もなくなった。
今の仕事を始めてからも、その感覚は消えなかった。アイドルという職業には、アンケートというものが欠かせない。年齢、出身地、学歴、そして必ずと言っていいほど存在するのが、特技欄。
特技披露という数少ないチャンスで結果を残せるかどうかが人気と直結するため、ファンが大注目のその欄を、私はいつも持て余していた。
全部、そこそこで全部、まあまあ。あとのすべては、できません。
考え抜いて書いたのは「ごはんを美味しそうに食べること」。親からもらって一番嬉しかった褒め言葉だった。
一つのことに絞れなかった人生。あれもこれもと手を出してきた時間。できないことから逃げてきた自分。そのすべてが、「ハッシュタグの多さ」として、今になって誰かの役に立てるかもしれない。
こんな幸せなことはないよな。
「24年もの間、私は私に負けないよう逃げ続けてきた」なんて思ったら褒めてくれる人に失礼だと思わされた出来事だった。
ちなみにInstagramで「#影山優佳」を検索すると10.2万件がヒットした。10万回も投稿されていると思うと嬉しはずかしである。
自惚れ続けて、その下にあった「#影山優佳好きな人と繋がりたい」もタップしてみる。
すると、私の貧相な水着の写真と、バラエティ番組でぶりっこをしてシラケまくってる動画が出てきた。一生調べなきゃよかった。
影山さんの連載第2回は、5月20日(水)発売の『anan』2496号に掲載!
information
2026年5月20日発売のanan 2496号の特集は「守れ!夏の肌と髪 2026」。年々過酷さを増す夏に向けて、紫外線や湿度、寒暖差に負けない肌と髪の育み方を紹介する、anan恒例の美容特集号です。 FRUITS ZIPPER の“あまれん姉妹”こと月足天音さん松本かれんさんペアやフリーになりたての岩田絵里奈さん、『バチェロレッテ・ジャパン』への出演で話題の全日本プロレスの安齊勇馬選手、昨年新人王に輝いた埼玉西武ライオンズの武内夏暉選手など注目の人が自身のスキンケア・ヘアケアを語る企画も!
CLOSE UPには5/7にいよいよデビューのROIROM、そしてブレイク中のモナキが登場します。
Profile
影山優佳
かげやま・ゆうか 2001年5月8日生まれ、東京都出身。2023年に日向坂46を卒業。最近の出演作にドラマ『シナントロープ』、『未来予測反省会』など。テレビ東京系『バカリズムのちょっとバカりハカってみた!』、日本テレビ『ウェル美とネス子。』に出演中。今年7月に初のエッセイ集を発売予定。
anan 2495号(2026年5月13日発売)より
























