
昨年、配信ドラマで8年ぶりに俳優復帰を果たした成宮寛貴さん。トランクひとつで海外に赴き、何気ない日常の中の幸せや美しさに目を留め暮らす中で、自分の内にある表現することへの喜びを実感したという。そんな中、今、再び、表現の世界に還り、自身の原点ともいえる舞台という場所で、新たな挑戦に向かおうとしている。美しい言葉で綴られながらも、観念的で難解と言われる三島由紀夫の戯曲『サド侯爵夫人』。オールメールで上演される本作で、罪に問われた夫を頑ななまでに愛し擁護する妻・ルネを演じる。
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運命が「挑戦するべきだ」と言っているように感じました
── 舞台『サド侯爵夫人』は成宮さんの約12年ぶりとなる舞台です。演出が、デビュー作で初舞台でもある『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』の演出を手掛けた宮本亞門さんというところに、運命的なものを感じます。
そうですね。とても運命的に感じました。 亞門さんからオファーをいただいたときに、運命が「挑戦するべきだ」と言っているように感じました。
僕がABEMAドラマ(『死ぬほど愛して』)の主演をやることになり、復帰の準備が整ったタイミングで、海辺で行われたジャズの演奏会を観に行ったんです。
席がラフに置いてあって何気なく座ったら、なんと目の前に亞門さんがいらっしゃいました。そこで「実は僕、復帰するんです」というお話をさせてもらって、その後、一緒に食事に行くことになった際に、舞台のお話をいただきました。
そのような偶然の出会いも含めて、すごく運命的だし、決まっていたことなのかもしれないと思って。運命に逆らわず、初心に戻った気持ちでお仕事をさせていただければとお引き受けさせてもらいました。
これまでの人生も、ターニングポイントには必ず誰かがいるんです。自分が、今こういうことに挑戦したいなって思っていると、その世界に携わる人が現れて、背中を押してくれる。自分1人の力で前に進んでいくというより、扉の前に誰かが立っていて、その人が僕に足りないものをくれて新しい世界が開ける、みたいな感じなんです。そこで恐れて飛び込めなかったりすると、道を見失ってしまったり、大切なものを見逃してしまうのではと思って、しっかりと抱きついてきました。
── その作品が三島由紀夫の『サド侯爵夫人』ですが、どのように受け止められたのでしょうか?
一度、三島さんの『金閣寺』という作品を読んだ際に、最初の3ページほどで脱落したことがあります(笑)。
でも、改めて今回三島さんの作品に触れてみて、その独特な表現がとても素敵だなと思っています。
三島ワールドというようなレトリックもすごく情熱的で毒毒しかったりもして。このセリフを自分が発するのだと思ったときは、もう1度舞台に立てるという嬉しさと同時に、とてつもない試練の時だと気が引き締まる想いの両方がありました。でも直感的に、それも今の自分にとっては必要な試練なのではないかとも思いました。

── 亞門さんからは作品について何かアドバイスは?
実は僕、亞門さんとは以前偶然同じマンションに住んでいて、家にお邪魔したり、業界の中でも親しくさせていただいていました。ただ今回、再び演出家と俳優という立場ですから、今まで通りにするのも違うと思って、あえて少し距離を置くようにしています。
稽古の日までは、作品について多くを聞かずにおいて、始まったところで、自分がこの作品やルネという役に対してどう感じたのかをお見せしたいと思っています。
言葉に隠れている本当の心を一つ一つ見つけていきたい

── 初舞台のときに感じたお芝居の面白さや、学んだことなど、当時の亞門さんとの思い出があれば伺えますか?
初舞台の時、17歳ですよ。とにかく必死に立ち向かっていたので、記憶がとても曖昧なんですよね。ただ、亞門さんはダンスをやっていた方なので、演出しているときも、驚くほどに開脚をしていて、そこだけは覚えています(笑)。
とても明るくてすごく鋭い目を持った方で、自分がしっくりときていないまま、嘘の感情でお芝居していたりすると、すぐに見抜かれるんです。「今、どういう感情でそれをやったの?」と(苦笑)。
なので、いち早く戯曲をしっかりと自分の血と肉にしなくてはと思っています。三島さんの書かれた言葉の美しさや、言葉に隠れてしまっている本当の心などを、一つ一つ、薄い皮をめくるように見つけていく時間を楽しみにしています。
── 今感じているのは、面白さですか?難しさですか?
難しさはありつつも、三島さんの言葉一つ一つに日本人の美学が詰まっているのだと感じています。
三島さんの作品はレトリックがすごく、「好きだ」とひと言で済む箇所を4行~5行もかけて伝えたりしますので、セリフを言いながら、気持ちを切らさないようにしなくてはと思っています。そこは昔にも苦労したことがあるので、今、少し練習しています。
── ご自身の課題としては?
様々な女性が登場する中でも、僕が演じるルネは、夫のスキャンダルが発覚しても、周りから何を言われても、一度愛すると決めた相手を擁護し続けます。そのような強さを持った女性で、静かだけれど心は燃えていますから、彼女の愛情深さや強さのようなものを、あの難しいセリフの中からひとつずつ見つけて、丁寧に表現していけたらと思っています。
── 今回、オールメールでの上演です。過去にオールメールの舞台も経験していらっしゃいますが、成宮さんが感じるオールメールの魅力を伺えますか。
ビジュアル的な部分でも楽しんでもらえるのかなと思いますし、一方的な決めつけのようにもなるかもしれませんが、男性が演じることで、男性から見た女性像みたいなものが、より浮き彫りになるような気がします。
そもそも三島さん自身が男性なので、男性目線で描いた女性たちの物語ではあるんですよね。だから男性が演じることで、そこがより抽出されて、作品としては面白くなるのではないかと思っています。
今自分が考えているものは、完全に壊されるんだろうと思っています

── 昨年の配信ドラマで俳優活動を再開しましたね。
『神の雫』とか『金田一少年の事件簿』などの原作をご姉弟でされている樹林(ゆう子・伸)さんのご姉弟とプライベートでも仲が良く、おふたりからお声がけいただいたのがきっかけでした。とても大好きなおふたりで、昔から年に1度お食事に行く関係で、その際に「演じてもらいたい役があるんだよね」とお話をいただいていたのですが、1度はお断りさせていただいたんです。
ただ、エンターテインメントというものから離れている間も、SNS上で応援してくださったり、支えてくれる方々がいて、そのような方々のメッセージが僕のもとに届いていました。僕自身、自分と向き合う時間を過ごしてきて、今、台本を開いて、もしお芝居をやったらどんなお芝居ができるのだろうという興味はありました。
とはいえ、俳優という仕事は1人でできるものではなく、周りの方々の協力も必要だし、環境も整えていかなくてはいけない。そんなタイミングで、もう1度樹林さんからお声がけをいただきました。二度もお声がけをいただけることなんてそうないことだと思いますし、そのお気持ちも嬉しく、ドラマ出演に繋がったという流れでした。
── 前回が殺人鬼、そして今回は『サド侯爵夫人』で女性の役と、一筋縄ではいかない役が続きますが、今はどんなお気持ちですか?
バクバクです。(笑) 今、考えているものは、稽古が始まったら完全に壊されると思っています。そこで一旦フラットになって、改めて再構築していくことが今の自分には必要なことだと思っているので、壊される覚悟ではいます。
── プレッシャーには強いタイプ? 弱いタイプ?
本番が始まってしまえば大丈夫な性格ではあります。稽古場では、「明日が本番で大丈夫?」という気持ちになったりもするんですが、本番だと何も問題なかったり。
緊張って、やはり自分の力以上のものを出そうとするから緊張するんですよね。過去の経験でいうと、稽古してきたものを100%で臨もうという気持ちでいれば、そこまで緊張しなかったです。
だから稽古のうちにたくさん泣いて、たくさん挑戦してたくさん失敗して…というプロセスを怖がらずにやっていこうと思っています。
── お休みしていた間、エンターテインメントやアートに触れる機会はありました?
もともと映画も音楽も大好きです。1か月に1度はオーケストラのコンサートを聴きに行ったり、美術館に行くこともありました。オランダでは、日常的にお花を買って、家で生けたりしていました。形が変わっても自分は何かを表現することが好きなんだなと感じた日々でした。
── そうやってご自身の感性を磨いていたんですね。
内面的な部分で耕されて豊かになった面が多くあったと思いますね。
お客さんの拍手で、生きていてよかったなと思うんです

── これまでにも数々の舞台に挑戦してきている成宮さんにとって、舞台の面白さ、魅力ってなんだと思います?
やはり生で観るものなので、映像よりお芝居の生の迫力を感じていただけると思います。演じる側としては、映像とは違い、カメラにクローズアップはしてもらえたりしませんので、自分の力でお客さんを惹きつけなくてはいけない。視点をコントロールするための工夫が必要なんですよね。難しいけれど、それがうまくいったと思えたときは、嬉しいです。
── 俳優というお仕事から離れていた時間も糧にできるのが、俳優というお仕事の面白さかと思います。いま、糧になったと思うことは?
トランクひとつで海外に行って、多くのことを経験してきて、それで成長していなかったら困ります(笑)。自分自身ではどこが成長したかは具体的にはわからないけれど、舞台を観に来てくださった方々に、そう言っていただけたら幸せだと思っています。
── 先ほども、「今、自分がお芝居したらどうなるか興味があった」とおっしゃっていましたが、演じることの面白さって、どんなところですか?
一度やった方ならわかると思います(笑)。それほどに中毒性のあるものです。お芝居…自分ではない“役”になっている瞬間って、とても楽しいアドレナリンが出るんです。
── 思い出す中で、とくにあの瞬間、というものはありますか?
これは役者には限らないですけれど、この地球上に生きていて、自分が誰かを幸せにできているかもしれない、と思えるのって、人間として生きていてよかったなと思える瞬間だと思うんです。
それが実感できる瞬間って、舞台であれば、カーテンコールで拍手をいただいたり、スタンディングオベーションの瞬間だったりするんですよね。映像でも、僕の何かの活動を観た方が一生懸命に励ましのお手紙をくださったり、お声をかけてくださったりすることがあって。
そういうリアクションが返ってきた時には、生きていてよかったなと思うし、自分はここで生きていていいんだと認めてもらったような、そんな気持ちになれるんです。

── 自分がうまくできた満足感より、周りが喜んでくれる瞬間なんですね。
自分が「最高によかった」と思う瞬間って、意外と他人から観るとそうでもなかったりするんですよね(笑)。
── でもだから追い求め続けてしまうのかもしれませんね。
年々歳を重ねていくことで感じ取れるものがあったりもするし、様々な経験の中で増えた引き出しもあると思います。
今、台本を開いて作品に没頭する時間というのが、自分にとってとても新鮮で楽しい時間で、そう思いながら活動出来ているのが本当に幸せです。
── あらためて、読者のみなさんにメッセージをいただけますか?
復帰してまだ間もないですが、挑戦をし続けなくてはいけないという気持ちで、本当に成し遂げられるかわからないほどに素晴らしい作品に参加します。
皆さんに面白い作品をお届けしたいと思って臨みますし、僕なりの『サド侯爵夫人』、僕なりのルネをお見せできればと思っていますので、ぜひ劇場でご覧ください。
Profile

成宮寛貴
なりみや・ひろき 1982年9月14日生まれ、東京都出身。2000年に舞台『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』でデビュー後、ドラマや映画、舞台で活躍。本作が復帰後初の舞台となる。
information

『サド侯爵夫人』
作/三島由紀夫
演出/宮本亞門
出演/成宮寛貴、東出昌大、三浦涼介、大鶴佐助、首藤康之、加藤雅也
2026年1月8日(木)~2月1日(日) 東京:紀伊國屋サザンシアター
TAKASHIMAYA
2026年2月5日(木)~8日(日)大阪:森ノ宮ピロティホール
2026年2月13日(金)・14日(土)愛知:穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
2026年2月17日(火)・18日(水)福岡県:福岡市民ホール 中ホール
全席指定1万1000円
サンライズプロモーション TEL. 0570-00-3337(平日12:00~15:00)






















