加藤シゲアキさん

アイドル、作家、クリエイター。エンタメの世界で活躍の場を拡張し、年々存在感を増す加藤シゲアキさん。2020年からの激動の5年間で得た、「誰かのために」という意識が、表現活動の原動力になっている。


── 加藤さんにはNEWSとして、そして作家や俳優として、長きにわたりさまざまな形で誌面にご登場いただいています。その時どきで、気持ちやスタンスは違うものなのでしょうか。

違いはとくにないですね。インタビューのときに「あ、今回は作家として出るんだな」と気づくくらいで(笑)。そもそもアイドルの自分も、作家をやっている自分も、お芝居をしている自分も、基本的に変わらないから切り替える意識がないんです。ただ、TPOというか、例えば文芸誌の撮影なら重厚なイメージを求められるので合わせますが、ananのときはいい意味でゆるんでいます。やっぱり連載で長くお世話になっているから、“ホーム感”がありますね。

── 『ミアキス・シンフォニー』は、不定期で4年連載し、加筆修正期間を経て今年書籍に。どんな道のりでしたか。

単行本になるまで約7年、本当に長かった。書き上げられて感慨深いです。お待たせしてしまいましたが、時間がかかった分、自分の技量もおのずと上がって満足のいくクオリティに。ホームと感じるくらい編集部と信頼関係を築くこともできたから、それはよかったかなと。女性読者が多い媒体なので、女性が読んでみたくなるような内容、ギミック、文字数のバランスには気を配りました。まさに「ananだからこそ書けた小説」といえるし、自分自身が普段、読者としては選ばない作風に挑戦したことで、そのギャップを楽しむこともできました。

── この5年で『オルタネート』『なれのはて』が直木賞候補にもなり、小説家として大きく飛躍されました。2020年からの期間を振り返っていかがですか。

NEWSの20周年や会社の変化などいろいろあって、けっこう激動でしたけど、やっぱりコロナ禍の影響は一番大きかったですね。立ち止まって自分を見つめ直したことで、仕事ができるありがたさや、ananをはじめ「一緒に頑張ろう」と手を取り合える関係の心強さを実感し、感謝の気持ちがより深くなりました。直木賞や文学賞の候補に選ばれるのも、作品に目を留めて応援してくれた人がいたからであって、自分ひとりの力ではないのだと気づかされました。

── 昨年は、能登半島地震復興を支援するチャリティ小説集『あえのがたり』を、発起人のひとりとして出版されました。

なんというか、自分にできることで感謝を返している感覚なんですよね。「みんなのおかげ」「誰かのために」というマインドが強くなったのはこの5年での大きな変化。そういう意識でいると、いい気が巡るのか自分の心が穏やかになり、周りも自然と同じ空気になっていく。その結果、「一緒に仕事したい」と声をかけてくださる方が増え、クリエイティブの幅が広がって、舞台やドラマでも本当にいい縁に恵まれました。

──今まで以上に表現の場が広がったことは、小説を書くうえでの収穫にもつながりましたか。

舞台やドラマの脚本には、みんなで作り上げる楽しさがある一方、どうしても制約が伴います。その点、小説は基本的に自分が書きたいことを書きたいだけ書ける場。一人で完結できる自由さを改めて感じました。もちろん自由ゆえに大変な労力が必要で、それこそ『ミアキス・シンフォニー』を書いているときもめちゃくちゃしんどかったですけど(笑)、別の現場を多く経験して、小説でしか実現できないものがよりくっきり見えてきた気がします。

この先も変わらず、今を未来へつなげる

── これからananでやってみたい企画や会いたい人はいますか。

もう十分やらせていただいているんですけど、このあいだの『ブルーピリオド』の山口つばささんとのコラボ企画(

)のように、垣根を越えていろいろなクリエイターの方とご一緒できたら嬉しいです。そうした異文化交流が、創作の刺激にもなるので。

── この先5年後の自分は、どうなっていると想像しますか。

これまで通り、いろいろチャレンジを続けながら、培ってきたものをあきらめずに磨いていくことになるんじゃないですかね。今が充実しているのは、周囲の人のおかげでもあるし、過去の自分が踏ん張ったからでもあると思っています。つまり、今の努力を未来につなげる、その繰り返しなんですよね。過去から受け取ったものを未来に渡すバケツリレーをひたすらやって、あっという間に5年経っちゃいそうですね。もうすぐ40歳を迎えるので、とりあえずは“不惑”の境地を目指したいなと。

── 来春、有明にオープンする新劇場「EX THEATER ARIAKE」のこけら落とし公演『AmberS‐アンバース‐』では、原作・脚本、クリエイティブディレクターを務められます。

先ほど「誰かのために」という話をしましたが、この企画もまさにその思いから始まりました。あちこちで「僕でよければ力になります」と伝えてきたことがきっかけです。2年かけて構想を練り、絶対に面白くなる要素を詰め込みました。演出家や演者との協働で生まれる化学反応は、小説とは違う醍醐味。どんな作品に仕上がるか、ワクワクしています。

── 楽しみです。最後に、ananにメッセージをいただけますか。

自分が載ったananが1週間しかお店に並ばないのは残念だけど(笑)、雑誌がどんどん姿を消していくこの時代に、毎週違うテーマを発信し続けているのは本当にすごいこと。占いやSEX特集といったananらしさを変わらず大事にしながら、時代に合わせてアップデートを重ねている姿勢は、理想的なんじゃないかと。そしてananそのものが挑戦的であり、誰かのチャレンジを後押ししてくれる存在でもあると思っています。僕自身も挑戦を続けていきますので、末永くよろしくお願いします。

2025年、55周年を迎えた雑誌『anan』。anan の YouTube では、誌面を彩ってくださったスターのみなさんに anan の思い出を語っていただく動画を公開中

Information

『ミアキス・シンフォニー』

anan 2097号(2018年4月4日発売)~2302号(2022年6月8日発売)に掲載(不定期連載)。成長できない焦燥感を抱える女子大生のあや。同級生のまりなと遭遇し、思いがけない事件を起こしたことをきっかけに物語が動き出す…。料理人師弟の感情のもつれ、兄弟の愛憎、元夫婦の複雑な思いなど、孤独や葛藤を抱える多様な人間模様が交錯し、「愛とは何か」を問いかける。

ananwebの『ミアキス・シンフォニー』スペシャルサイト

Profile

加藤シゲアキ

かとう・しげあき NEWSのメンバーとして活動する傍ら、2012年に『ピンクとグレー』で作家デビュー。2021年『オルタネート』で吉川英治文学新人賞を受賞し、現役アイドルとして初の快挙と話題に。舞台や映像作品の脚本、俳優業などマルチに活躍。

フリンジスウェット¥36,300 ワイドパンツ¥66,000(共にニューオーダー/シアン PR TEL. 03-6662-5525) その他はスタイリスト私物

写真・中島慶子 ヘア&メイク・KEIKO(Sublimation) スタイリスト・吉田幸弘 取材、文・熊坂麻美

anan 2474号(2025年12月3日発売)より
Check!

No.2474掲載

創刊55周年記念号

2025年12月03日発売

黒柳徹子さん、林真理子さん、酒井順子さん、江原啓之さん、SixTONES、Snow Man、岡田准一さん、山田涼介さん、timelesz、乃木坂46、劇場版『名探偵コナン』、ちいかわ、なにわ男子、Travis Japan、Aぇ! group、辻村深月さん、湊かなえさん、青山美智子さん、加藤シゲアキさん、稲垣吾郎さん、中島健人さん、Perfume、小島秀夫さん。伝説の連載、村上春樹さんの「村上ラヂオ」も一号限りで復活。創刊55周年記念号だからこそ叶った、超豪華ラインナップ。最強のときめくスターが大集合した、お祝いムードあふれるまさに日本トレンドの歴史書、永久保存版の一冊です。

Share

  • twitter
  • threads
  • facebook
  • line

Today's Koyomi

今日の暦
2025.12.
17
WED
  • 六曜

    先勝

  • 選日

    母倉日

要領よく生きられる人もいれば、人が良すぎて、または気が弱くて損な役回りに耐えながら生きている人もいます。今日の暦は後者のタイプのつらさに関係しますが、だからこそ周りの人も気にかけておいて、必要なら具体的に手を貸すことが求められる日です。忍耐は美徳ともいいますが、それで心を病んでは元も子もありませんから。

Movie

ムービー

Regulars

連載