
鈴木みろ『33歳という日々 子なし夫婦、エリの場合/独身彼なし、このみの場合/シングルマザー、ゆみの場合』
「最初にイメージしたのは、仲の良かった3人が久しぶりに集まったのに、ギクシャクしているシーンでした。今はそれぞれ立場は違うけれども、よくいそうな人たちがいいなと思いながら描き始めました」。本作は、高校時代の親友3人が33歳になり、自らの人生と向き合い葛藤する全3冊のシリーズ。「子なし夫婦、エリの場合」「独身彼なし、このみの場合」「シングルマザー、ゆみの場合」の発売順で、それぞれの視点から物語が綴られていく。
結婚、出産、仕事…。どの道を選んでも不安と希望は背中合わせ
「結婚や出産、仕事などいろんなことに焦りを感じるのは29歳頃なのかと思っていたのですが、むしろ33歳くらいで息苦しくなる気がしていて。仕事では責任と信頼が大きくなるけれど、高齢出産といわれる年齢が近づいてきて、自分はどうしたいのか決めないといけない。それ以前もじわじわと不安を感じていたことが、より一層生々しく突きつけられるのがこの年齢なのかなと思いました」
シリーズ1作目、結婚して3年経つエリは子どもが欲しくて焦っている。妊活に非協力的な夫に苛立ち、母親になれない自分に劣等感を抱く。
「エリは3人のなかで一番優しくて、自分の気持ちを二の次にしちゃう人。『夫婦なのに言葉にできないなんて』という声より、『夫婦だからこそ言えない』に共感してくれる人が多くて嬉しかったです」
このみは華やかな美人タイプ。彼氏は4~5年おらず、ネイルサロンの雇われ店長として働く日々のなか、ことあるごとに孤独を感じている。
「自他ともに明るさが魅力だと知っているから、人前でスイッチをオフにできないんです。このみみたいになりたいと思う人はたくさんいるけど、彼女自身は誰に弱音を吐くのだろう、と思いながら描きました」
仕事人間のゆみは4歳の娘のシングルマザー。思いがけず妊娠・結婚するものの、出産して間もなく離婚。完璧な母親でありたいという理想に、押しつぶされそうになっている。
「お母さんたちにも、子どもがいない自分に戻りたくなる瞬間があってもいいと思うのですが、それを口に出せない心境を想像しました」
三者三様、もがき苦しんでいるのだが、ユニークなのが別の視点(本)ではまったく異なる人物のように描かれていること。隣の芝生が青いのは、幻想だと気づかせてくれるのだ。
「性格的に憧れるところがあって補え合える関係だからこそ、10年以上も親友でいられるのだと思うのです。結婚や出産など外的要因でぎこちなくなるのは切ないし、どのキャラクターも掘り下げるほど、青い芝生なんてないんだろうなと感じます」
似た悩みを持つ人は救われるかもしれないし、周りの誰かに寄り添いながら読む人もいるだろう。そして3人の物語を通して読むと、いつかの私たちの姿が見えてくるはずだ。
Profile
鈴木みろ
すずき・みろ イラストレーター、マンガ家。誰にも言えない切なさや葛藤を描く。本作が初の単行本となる。
Information

『33歳という日々 子なし夫婦、エリの場合/独身彼なし、このみの場合/シングルマザー、ゆみの場合』
既婚、独身、子持ち。高校時代の親友3人が、互いの境遇や変化に嫉妬し、励まされながら生きるリアルな日々。SNSで共感の声が広がった話題作。KADOKAWA 各1540円 Ⓒ鈴木みろ/KADOKAWA
anan 2467号(2025年10月15日発売)より