
竜星 涼さん
これまで数々のコメディを手がけ、自らも喜劇作家と名乗る三谷幸喜さん。その三谷さんが400年以上前に書かれたシェイクスピアの喜劇『から騒ぎ』を翻案。『昭和から騒ぎ』とあるように、戦後の日本・鎌倉が舞台になっている。
シェイクスピアを三谷幸喜が翻案。「個性豊かな方々ばかりで楽しいです」
「翻案はされているけれど、セリフの言い回しなどはまさにシェイクスピア。でも誰でも観やすい作品になっていると思います。今回は登場人物が少ないので、いくつかの役割をひとりが担っていますけどね。キャストのみなさんが個性豊かな方々なので、毎日稽古が楽しいです」
そう話す竜星涼さんは、2020年の『大地』ですでに三谷さんの舞台は経験済み。
「三谷さんって、唐突にお遊びの延長にも思えるような突飛な演出をつけられることがあるんです。たとえば(高橋)克実さんに、舞台なのに『ここはカメラ目線で』と言ったり。前回の舞台でも、公演の中日過ぎに『あのシーンで相手の背中を蹴って』とおっしゃられて(笑)。突然の要求で、ドキドキしながら試してみたら、客席から笑いが起きたんです。僕らの想像を超えることをされる面白い方だなと思います」
本作は2組の男女の恋が、嘘や勘違いからすれ違い、複雑に絡み合ってゆく物語。そこで竜星さんが演じるのは、旅役者の定九郎。恋人に裏切られたと思い込み、結婚を目前に彼女を拒絶する役柄だ。
「誠実でまっすぐな人ゆえに、裏切りが許せないんですよね。以前もご一緒している三谷さんがこの役を書いたってことは、自分はこんなイメージを持たれているのかな。でもたしかに、基本オープンな人間だけれど、何かがあって一度心の扉を閉めたらなかなか開かない、みたいなところはあるかもしれません(笑)。自分が誠実に向き合っている相手には誠実で返してほしいというか」
役を演じる俳優に重ね、本人の持ち味を最大限に生かすのが三谷作品の大きな魅力。とくに今作は「(大泉)洋さんへの愛が溢れた脚本になっている」と話す。
「読んだときから、洋さんがやったら面白いだろうなって想像して笑っちゃったくらい。洋さんを若干イジっているようなセリフもあって、ご本人は本読みしながら『これは原作にあるんですか?』って三谷さんに詰め寄っていました(笑)。三谷さんは『原作通りです』と返していましたけど(笑)。僕が言うのもおこがましいですけど、洋さんってセリフの音の当て方がすごいなと思うんです。映像と違って、舞台は細やかな表情の変化が客席からは見えないぶん、そこを音で表現されているというか。おちゃらけているように見えても、やはりすごい方なんですよね。稽古場であんなにボヤいているのに、空気が悪くなるどころか笑いが起こる人って洋さんだけだと思います。ズルいですよね(笑)」
逆に自分自身は「不器用なタイプ」。「結局、テクニックよりも感情で演じたいと思ってしまうほうなので、公演期間中ずっとその熱量を継続させるのが大変で」と苦笑い。
「公演が続くと、どうしても凝り固まってきてしまう部分があるんですよね。でも自分的には、つねに感情は揺らいでいたい。だから最終的な着地点は同じだけど、アプローチを日々少しずつ変えてみたり、最初のアプローチに戻ってみたり…今も試行錯誤しています。そう考えると三谷さんは、長期公演の間に揺らぎを作るのが上手なのかもしれない」
この正直で一途な真面目さが、役にどう生きるのか楽しみにしよう。
Profile
竜星 涼さん
りゅうせい・りょう 1993年3月24日生まれ、東京都出身。近作に、大河ドラマ『光る君へ』、ドラマ『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』、映画『ショウタイムセブン』など。出演映画『九龍ジェネリックロマンス』は夏公開。
シス・カンパニー公演『昭和から騒ぎ』
Information

旅芸人一座の看板役者・木偶太郎(大泉)とドイツ文学者・鳴門(高橋)の長女・びわこ(宮沢)は犬猿の仲。一方、一座の花形・定九郎(竜星)は鳴門の次女・ひろこ(松本)に恋をし…。5月25日(日)~6月16日(月) 三軒茶屋・世田谷パブリックシアター 原作/ウィリアム・シェイクスピア(河合祥一郎訳『新訳 から騒ぎ』角川文庫より) 翻案・演出/三谷幸喜 出演/大泉洋、宮沢りえ、竜星涼、松本穂香、松島庄汰、峯村リエ、高橋克実、山崎一 S席1万2000円 A席9000円 B席5000円 シス・カンパニー TEL:03・5423・5906(平日11:00~19:00) 大阪、福岡、札幌、函館公演あり。
anan 2447号(2025年5月21日発売)より