見てはいけなかったと思うような部分も容赦なく写す…写真家・鷹野隆大「カスババ」の視点

エンタメ
2025.02.27

「カスババ」とは何か? 「カスのような場所(バ)、“カスバ”の複数形で、鷹野隆大さん自身の造語」だと学芸員の遠藤みゆきさんは話す。

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生きのびるために瑣末で退屈な日常から目を背けない。

「日常で目にするカオスな都市空間にあえてカメラを向ける人は少ないと思います。それを鷹野さんは自分に課した。苦痛でならなかったそうですが、撮り続けるうちにこの写真の集積が『自画像のようなものではないか』と気づいたのです」

たわんだ電線、高架、コンビニ、駅の駐輪場、消費者金融の看板。私たちはありのままの街並みから無意識に目をそらす。しかしそれでは“見ないことにする”現実があまりに多すぎはしないだろうか。

写真と映像の専門美術館、東京都写真美術館が今年で開館30周年を迎える。記念展の第一弾では写真家・鷹野隆大の代表作から新作まで取り上げる。第31回木村伊兵衛写真賞を受賞した『IN MY ROOM』(2005年)では、モデルの体は画面の中央から外れたり、上半身、下半身だけが写る。眼差しはてらいなくレンズを見つめ、男女の性差やエロティシズムを強調しないあるがままの姿は、過去に量産されてきた“男性写真家が撮る女性ヌード”に見られるステレオタイプと一線を画す。

「現実の社会で私たちが向き合うのは退屈な街並みだったり、むしろ理想とは程遠いヌードだったりもする。鷹野さんは私たちが見てはいけなかったと思うような部分も容赦なく写します。絵画ではなく、写真という一瞬を写す記録メディアだから成し得る表現でしょう」

〈立ち上がれキクオ〉ではモデルが徐々に立ち上がり、3カット目でフレームから抜け出していく。カメラの捉える枠の外に世界は広がっている。私たちが属している現実はそちら側にあるのだ。

「自分自身を見失わないために、外に意識を向け、日常で何が起きているかを見極めようとするのが『カスババ』のコンセプト。その視点からこれまでの作品とも新たに出合い直してほしいと思います」

鷹野隆大《レースの入った紫のキャミソールを着ている(2005.01.09.L.#04)》〈In My Room〉より 2005年 ⒸTakano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

鷹野隆大《2002.09.08.M.#b08》〈立ち上がれキクオ〉より 2002年 ⒸTakano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

鷹野隆大《2019.12.31.P.#02(距離)》〈Red Room Project〉より 2019年 ⒸTakano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

鷹野隆大《2015.10.28.#a28》〈カスババ2〉より 2015年 ⒸTakano Ryudai, Courtesy of Yumiko Chiba Associates

INFORMATION インフォメーション

総合開館30周年記念 鷹野隆大 カスババ ―この日常を生きのびるために―

東京都写真美術館 2階展示室 東京都目黒区三田1‐13‐3 恵比寿ガーデンプレイス内 2月27日(木)~6月8日(日)10時~18時(木・金曜は~20時。入館は閉館の30分前まで) 月曜(5/5は開館)、5/7休 一般700円ほか TEL:03・3280・0099

取材、文・松本あかね

anan2436号(2025年2月26日発売)より

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