二人の共通する仕事姿勢は「時間をどう操るか」。
ゆっきゅん(以下、ゆ):藪前さんが展覧会を作る時に意識していることはなんですか?
藪前知子(以下、藪):わりと私は素直な構成を心掛けるほうだと思います。意外な視点やギミックを入れて観客を持っていくキュレーターもいると思うんですけど、私は違和感なくシンプルで自然な流れの中で見せていくことを基本としています。
ゆ:シンプルを軸に、流れの中で面白みを加えているんですね。
藪:時間をどう操るかが、すごく重要かもしれないですね。最近の仕事の「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」という展覧会も、最初は斬新な切り口を構想したんです。でも結局は、コレクターである高橋先生の人生と戦後の美術史が並行していくという方法をとっています。自分としては、時間を編集している感覚です。ゆっきゅんの最新アルバムも時間の話ですよね。
ゆ:バレてましたか。その側面はありますね。いま自分が29歳で、抱え続ける思い出が増えてきた中で、自分の中にあるノスタルジーと向き合った作品なので。
藪:展覧会の作り方も、今この空間にいる観客が、過去に作られた作品とどう出合うかを演出するものでもあるので、似ているところがありますね。
ゆ:わかる気がします。
藪:ゆっきゅんの楽曲では「幼なじみになりそう!」に驚きました。過去にない関係を未来で作り替えちゃう。言葉で時間を操ってる。
ゆ:たしかに「今日」とか「今」とか、時間のことはよく歌詞に書いちゃうんですよね。
藪:時制を操るのがポップスの本質って感じがしますよね。
ゆ:考えて作っているつもりなんですけど、無意識でやっていたことを指摘されて改めて気づくことも多いのでありがたいです。
藪:「プライベート・スーパースター」も好き。ゆっきゅんと君島大空くんの、曖昧な関係性が表現されているようで。
ゆ:でもそれは私にとっては全然曖昧ではなくて、目の前にちゃんとある関係性なんですよね。むしろそのまま書いています。そのままっていうのは実話という意味ではなく、自分が感じているままをそのまま。芸術や社会や世界の複雑さも、できるだけありのままを感じていたいから。
藪:あらゆるものは固定化しないほうがいいのかもしれませんね。文化は予想しない顔を常に覗かせています。最もくだらなかったり、最も芸術から遠いものに真実があるなんて、実によくあることです。
PROFILE プロフィール

藪前知子
やぶまえ・ともこ 東京都現代美術館学芸員。担当した主な展示は2015年「山口小夜子 未来を着る人」、’20~’21年「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(共に東京都現代美術館)など。現代美術やカルチャーについて執筆も行う。
PROFILE プロフィール

ゆっきゅん
1995年、岡山県生まれ。2021年からセルフプロデュースで「DIVA Project」をスタート。セカンドフルアルバム『生まれ変わらないあなたを』とそのリミックスEP『生まれ変わらない私を!?』が配信中。インスタ、Xは@guility_kyun
anan 2426号(2024年12月11日発売)より