ミニシアター系から洋画、アニメまで…2024年の“映画”話題作を識者がプレイバック

エンタメ
2024.11.13

今年は映像作品から、体感できる新しいエンタメまで、注目コンテンツが続々と登場。数ある作品の中から、特に話題になった作品を選考委員がピックアップし、コメントとともに、それぞれの作品の魅力をご紹介します。

ミニシアター系が台頭。話題作をプレイバック。

今年、劇場公開された映画の中でも大きなトピックは、いわゆるミニシアター系と呼ばれる映画が快進撃を見せたこと。その筆頭に挙げられるのが『悪は存在しない』。

「給付金の使い道から田舎町に起こる出来事を描いているのですが、非常にミクロな出来事を、マクロサイズの映画に仕立てることができるのが濱口(竜介)監督の素晴らしいところ。ストーリーテリングもピカイチで、今年の邦画ナンバー1。彼の本領が発揮された映画だと思います」(映画ライター・よしひろまさみちさん)

「渋谷と下北沢のミニシアター2館からの上映に始まって、あっという間に広がったことでも話題となった作品。とても作家性の強い作品で、結末も観る人それぞれに解釈が委ねられている。こうした自分の頭で考えさせる作品がトレンドになるのは素晴らしいことだと思います」(お笑い芸人・ジャガモンド斉藤さん)

またアニメ作品では、国内はもちろん海外のファンからも絶大な支持を得ているのが『ルックバック』。

「2人の女の子がひたむきに漫画を作り上げる姿を描いた青春映画。原作の通り、ストーリーが感動的なのは言うまでもありませんが、上映時間は約1時間とコンパクトで起承転結がハッキリしており、鑑賞しやすいのも特徴。劇中の音楽も魅力的で、観客の心を躍動させてくれる一因になっています」(斉藤さん)

また今年ブレイクした俳優・河合優実の存在が光る作品も多かった。

「『あんのこと』は実際の事件を題材に、入江(悠)監督が持ち前の大胆な作風を封印して、実在した女性の一生をスクリーン上に蘇らせようと満を持して丁寧に作ったことがわかる作品。主人公の河合さんに役が憑依していたのも印象的」(斉藤さん)

「『ナミビアの砂漠』での河合さんの芝居は本当に凄い。彼女は大作だけでなく、繊細な表現が求められる作品でこそ本領を発揮できる俳優だと思います。今後はますます日本映画のミューズとしても評価されるはず」(よしひろさん)

『ぼくのお日さま』では新人監督のフレッシュな感性が注目された。

「『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史が監督・撮影・脚本・編集を手がけた商業映画デビュー作。生き生きとしたキャラクターを作品の中に自然にとし込んでいる点が秀逸。またセクシュアルマイノリティを特別視することなく、説教くさくもなく描いたところが心地いい」(斉藤さん)

一方、洋画の注目作品といえば、第96回アカデミー賞で7部門の受賞を果たした『オッペンハイマー』。

「重厚なテーマを扱った作品ですが、ハリウッドの錚々たる大御所スターを惜しげもなく使って、魅せる作品に仕上げている点はさすが」(コラムニスト・山崎まどかさん)

「戦争や原爆のシーンはないけれど、オッペンハイマーの人生を通して伝わってくる、なかなかの反戦映画。日本人なら全員が観なきゃダメだと思います」(よしひろさん)

第96回アカデミー賞の脚本賞受賞作『落下の解剖学』も評価が高い。

「観た瞬間に、これはオスカーを獲る作品だと確信しました。とにかく物語の構成がずば抜けて上手い。母国語ではない言葉で話さねばならない法廷での妻、証人は視覚障害の息子、と絶妙な設定はよく思いついたと膝を打つほど」(よしひろさん)

もう一つ、『関心領域』も負の歴史を独特の表現で描いた話題作だ。

「アウシュビッツ強制収容所と壁一枚隔てた屋敷に住む家族は、水遊びをしたり、お茶会をしたりと優雅な日常を送る。ただ塀の向こうからは不穏な重機の音にまじって、銃声や悲鳴が聞こえてくる…。従来の恐怖の描き方とは異なるアプローチが逆に怖い。この映画は観る人を試すリトマス試験紙みたい。僕たちが何に恐怖を覚えるか試される映画だと思います」(斉藤さん)

「原作も翻訳されているので、両方を比べるとさらに楽しめる作品。原作からよくこの映像が発想されたなと感心するほど。すぐそばに存在する悲劇を説明しすぎないところに作品の深さがあります」(山崎さん)

そして今年の夏休み、劇場を最も賑わせた人気作はアニメーション『インサイド・ヘッド2』だったという結果も。

「前作を超える素晴らしい作品。成長した主人公が思春期特有の、感情をこじらせる様子がエンタメに昇華されており、複雑な脳科学の話をわかりやすく伝えられるのは脳科学者への徹底リサーチの賜物。思春期の不安は大人になるとモンスター化し、人を攻撃する。不安だらけの今だからこそ、本作が作られた意味を感じました」(よしひろさん)

また米韓合同作品として話題を呼んだのが『パスト ライブス/再会』。

「心に沁み込んでくる、とても素敵な感動作。感情を言葉にせず胸に秘めたところは、これぞ大人のラブストーリーという感じ。この映画が海外でも広く受け入れられているのを見ると、アジア人が主役でもハリウッドで十分通用する時代になったのだなと思いますね」(山崎さん)

『悪は存在しない』

『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞国際長編映画賞等を受賞した濱口竜介監督作。自然豊かな町に娘と暮らす巧。家の近くでグランピング場の設営計画が持ち上がるが…。ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞受賞の長編作品。
(C)2023 NEOPA / Fictive

『ルックバック』

『チェンソーマン』で知られる人気漫画家・藤本タツキが、2021年に「少年ジャンプ+」で発表した読み切り同名漫画を劇場アニメ化。監督でアニメーターの押山清高が、脚本・キャラクターデザインも手がける。全国公開中
(C)藤本タツキ/集英社 (C)2024「ルックバック」製作委員会

『あんのこと』

入江悠監督が2020年6月の新聞記事に着想を得て撮った人間ドラマ。売春や麻薬の常習犯である香川杏が、人情味あふれる刑事との出会いで更生の道を歩み出す。が、コロナ禍ですれ違い、それぞれが孤独に直面していく。
(C)2023「あんのこと」製作委員会

『ナミビアの砂漠』

21歳のカナは何に対しても情熱を持てず、自分が人生に何を求めているのかわからない。若者たちの恋愛や人生を鋭い視点で描いた山中瑶子監督作品。企画制作・配給:ハピネットファントム・スタジオ 全国公開中
(C)2024「ナミビアの砂漠」製作委員会

『ぼくのお日さま』

吃音の少年タクヤは、フィギュアスケートを練習するさくらに心を奪われる。さくらのコーチを務める荒川は、タクヤの恋を応援しようとペアでアイスダンスを始めることを提案する…。配給:東京テアトル 絶賛公開中
(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS

『オッペンハイマー』

クリストファー・ノーラン監督が原子爆弾の開発者であるアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。Blu-ray&DVD発売中。発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
(C) Universal Pictures. All Rights Reserved.

『落下の解剖学』

雪の山荘で起きた男性転落事故をきっかけに、視覚障害のある息子を巻き込んで様々な秘密や嘘が暴かれていき…。第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門パルムドール受賞作。Blu-ray¥5,390 発売・販売元:ギャガ
(C)2023 L.F.P. - Les Films Pelleas / Les Films de Pierre / France2 Cinema / Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

『関心領域』

ユダヤ人を中心に多くの人々を虐殺したアウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描く。第96回アカデミー賞受賞作。配給:ハピネットファントム・スタジオ 2025年1/8、Blu-ray&DVD発売。
(C)Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money
LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

『インサイド・ヘッド2

ライリーの頭に「シンパイ」という大人になるための新しい感情がやってくるが…。11/27ブルーレイ+DVDセット発売。発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン 発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
(C)2024 Disney/Pixar

『パスト ライブス/再会』

幼なじみの2人が、24年の時を経て再会する姿を描いた米韓合同作品。Blu-ray&DVD好評発売中。¥4,400 発売:株式会社ハピネットファントム・スタジオ 販売:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
Copyright 2022 (C)Twenty Years Rights LLC. All Rights Reserved

PROFILE プロフィール

よしひろまさみち

映画ライター、フリーエディター。ananをはじめ、雑誌や映画専門誌など、様々なメディアで活動。監督、俳優へのインタビューや記事の執筆も行う。日本映画ペンクラブ、日本アカデミー賞会員でもある。

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山崎まどか

コラムニスト。著書は『優雅な読書が最高の復讐である』『映画の感傷 山崎まどか映画エッセイ集』(共にDU BOOKS)など多数。数々の映画パンフレットに寄稿するほか、自身のnoteで毎年映画大賞を発表。

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ジャガモンド斉藤

お笑いコンビ「ジャガモンド」のツッコミ担当。テレビ埼玉の情報番組『マチコミ』の映画紹介コーナー担当。『ジャガモンド斉藤の映画宣伝にアレコレつっこむラジオ』(K‐MIX)、YouTube「シネマンション」に出演中。

取材、文・山田貴美子 イラスト・別府麻衣

anan 2422号(2024年11月13日発売)より

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No.2422掲載2024年11月13日発売

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2024年も各分野で新たに生まれた数々の流行。それらを一気に振り返るananのトレンド大賞が今年も発売に。FOOD、LIFE STYLE、BEAUTY、FASHION、CULTUREなど、分野別にキーワードをピックアップしてお届けします。

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