2人の現代アーティストが捉えた巨匠・岡本太郎とは。
本展では、アートシーンの第一線で活躍する2人が岡本太郎と関連づけた自身の作品を展示するほか、それぞれが思い入れのある岡本作品をチョイスし、その作品をコメントとともに紹介する企画も。作風の異なる2人のアーティストは一体、どんな作品を選び、また岡本太郎からどんな刺激を受けて本展に挑んだのか? それぞれの作家に聞いてみた。
淺井裕介さんInterview
岡本太郎と僕の共通項は、原始的な美に魅かれたこと。
「岡本太郎は万人のための芸術を提唱し、僕も地元の人と作品を作っている。彼と僕に共通項があるのなら“みんなのための美術”を志している点です」
と淺井裕介さん。18歳の時に生涯絵を描いて生きていきたいと思い、最終的には地上絵を描くことを目指してきた。大地をキャンバスに絵を描くという人間の原始的な行為のオマージュとして、世界各地で採取した土を使って絵を描く「泥絵」を考案し、地元のボランティアと共に作品を作り上げることも。本展では、自身と岡本の作品を並べることで、より双方への理解が深まる構図を模索したと語った。
「例えば《縄文人》という岡本の立体作品が、僕の絵画作品《命の寝床》を見ているインスタレーション。実はこの奥にも仕掛けがあり、来場者が土で描いた僕の作品の上に裸足で立って、岡本の絵画《明日の神話》を鑑賞できる場を作ったんです。縄文人も現代人も同じように大地の上で絵を愉しむという普遍の意味が込められています」
他にも、足の指を男女に見立てた作品や、鹿をテーマにした部屋など、岡本太郎と自身を繋ぐ意外なモチーフのブースもあり、バラエティに富んだ内容に。
「一見対照的に見えますが、僕と岡本は2人とも生命の根源に魅せられている。岡本は死を、僕は自然や生命の芽吹きを描く。作風は違っても、双方が並ぶことで、絵を楽しむことは人間が生きることと直結していると体感してもらえれば」
福田美蘭さんInterview
岡本の強い言葉に創作意欲を掻き立てられました。
ダ・ヴィンチの《モナ・リザ》や、マネの《草上の昼食》など、これまでにも世界の名画をテーマに、独自の解釈でユニークな作品を手掛けてきた福田美蘭さん。岡本太郎に挑むには新作が必要だと、今回は絵画やインスタレーションなど15の作品すべてを新たに手掛けた。作品作りは、まず岡本太郎という人間を知ることから始まったという。
「調べるほどに岡本は、生真面目で何事にも手を抜かない男。どんな局面でもいばらの道を選ぶ人だと思いました。彼の作品はその哲学を理解しないと見えてこないんです」
すべての岡本作品の中でもこれぞ最高傑作だと、福田さんが称賛する作品は絵画《森の掟》だ。
「描かれた赤いサメは権力の象徴。背中にはチャックがあり、チャックが開かれると中身は暴露され、バカみたいなものになってしまうと岡本が解説を残しています。その言葉に触発され、私はこのサメのチャックを開けた画を制作。同サイズで描いて並べました」
他にも、岡本が数多く残した目玉がモチーフの作品を壁面に集め、そこに目玉のバルーンを吊るしたインスタレーションも登場。なぜ岡本は見る者を威嚇する作品を作ったのかを鑑賞者に問う。
「岡本の作品は物質じゃなく、作品を通して見える彼の思想や生き様なんです。岡本の本質に触れれば、“芸術は爆発だ!”など一見意味不明な言葉や作品も、理解できるようになる。実に奥深い存在なのです」
PROFILE プロフィール
淺井裕介
あさい・ゆうすけ 1981年、東京都生まれ。神奈川県立上矢部高等学校美術陶芸コース卒業。近年の個展は「淺井裕介展 星屑の子どもたち」(金津創作の森美術館)、「なんか/食わせろ」(ANOMALY)。
PROFILE プロフィール
福田美蘭
ふくだ・みらん 1963年、東京都生まれ。第32回安井賞を史上最年少で受賞。西洋や日本の美術、広告など既成概念に問題提起した新しい視点の作品を発表。芸術選奨文部科学大臣賞など受賞多数。
INFORMAITON インフォメーション
川崎市市制100周年・開館25周年記念 「岡本太郎に挑む淺井裕介・福田美蘭」展
川崎市岡本太郎美術館 神奈川県川崎市多摩区枡形7‐1‐5 生田緑地内 開催中~2025年1月13日(月)9時30分~17時(入館は16時半まで) 月曜(11/4・11、1/13は開館)、12/29~1/3休 一般1000円ほか TEL:044・900・9898