気ままさと心細さとワクワクと、東京ひとり暮らし編、開幕!
「日常のささやかなことを描くのは相変わらずなんですけど、生活がガラッと変わったので、新しいことへの挑戦だったり、ひとり暮らしを始めてからの気づきみたいなことが、自然とテーマになっている感じです。『とびだせ!』っていうタイトルにも引っ張ってもらっていますね」
つづ井さんが「絵日記」と呼ぶその内容は、すべて事実に即している。だからマンガのためにネタを探すわけではなく、面白いことが起きたら描くというスタイル。たとえば、引っ越したばかりでおたまがなくて困ったり、あまりにも人と会わないため、表情筋を鍛えるトレーニングを始めたり、散歩中に出会う犬と仲良くなりたくてうずうずしたり…。
「自分で、ふふって笑っちゃったことがうまく描けてたらいいなと思っています。反対に描きながら、まだエンタメに昇華できていないことに気づいて、寝かせてみることもあります。『裸一貫!』のときは、世論なんて吹っ飛ばせみたいな、前向きでハッピーなイメージを結構意識していました。今回はもう少しフラットにというか、底抜けに明るい話じゃなくても心が動いたことを描き残していきたいと思っています」
一方、「前世からの友」と呼ぶ5人が集合する章に歓喜するファンも多いだろう。ノリの良さは健在で、オリジナリティ溢れるイベントが今作でも目白押し。友と無邪気にはしゃぐ姿は、変わらぬ安堵感を与えてくれる。大人になってからの上京、そしてひとり暮らしは気ままさと心細さが入り交じっていて、やはりちょっとした出来事で成長を感じるシーンには、グッとくるものがある。
「いい意味で人の目を気にしなくなって、思いつきでいろんなことをやってみるたびに、自分の価値観がちょっとずつ広がっている気がします。東京に対しては、いまだ少しの畏怖と大きな憧れがあるのですが、このこじれた感情がなくなっちゃうのももったいないなと思っていて、新鮮な気持ちを楽しみ続けたいですね」
シリーズのテレビドラマ化も決定して、「楽しみしかない」と言うつづ井さん。東京暮らしはこれからも、いろんなことが起こりそうだ。
つづ井『とびだせ! つづ井さん』1 「新しいことに挑戦したい」とアラサーつづ井さんが思い立った、東京でのひとり暮らし。断捨離から引っ越し、新生活、友との再会を描く待望の新シリーズ。文藝春秋 1210円 ©つづ井/文藝春秋
つづい マンガ家。著書に『腐女子のつづ井さん』『裸一貫! つづ井さん』。老犬の介護とお別れの日までをあたたかく綴った『老犬とつづ井』も発売中。
※『anan』2024年6月26日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子
(by anan編集部)