2019年に公開された『紺青の拳(フィスト)』が、劇場版『名探偵コナン』の初の監督作品だった、永岡智佳さん。’13年から劇場版の現場でコナンと関わり、今回の『100万ドルの五稜星(みちしるべ)』がコナン作品の監督3作目になります。
「今回監督としての仕事の依頼があったときには、怪盗キッドと平次がメインキャラクターになるということは決まっていました。その後、青山剛昌先生を含めてのミーティングで舞台について考えたのですが、前回キッドをフィーチャーしたときはシンガポールだったので、“それに負けないような夜景があるところがいいよね”という話に。一瞬神戸という話も出たのですが、今までも結構関西は舞台になっているからとなり、“じゃあ函館にしよう!”という流れで、函館に決まりました」
バランスは毎回異なるものの、アクションと謎解き、そしてラブコメの3要素が詰まっているのが、劇場版のお約束。今回は西の高校生探偵・服部平次と彼の幼なじみである遠山和葉がフィーチャーされるということもあり、特にラブコメ部分が楽しい約2時間になっている。監督自身も恋愛要素のあるシーンを描くのが好きだそう。
「ラブコメの場面は、小さな変化で気持ちを描き出すことができるのが面白い。例えば、ニュアンス程度の変化、眉の線1本、瞳のライン1本で表情がガラッと変わるんです。視線がどこを向いているか、または指先の小さな動きだけで、何かが表現できる。ラブコメシーンを作る醍醐味はまさにそこです。一方で、アクションシーンはまったく逆で、そんな細かいことは二の次(笑)。とにかく動きのカッコよさを徹底的に追求します。そこで大事なのは、テンポと速度。動きのタイミングがピタッとハマってカッコいいシーンに仕上がったときは、思わず“やった!”と声が出るほど嬉しいです」
難しい謎解き部分も、丁寧な描写を心がけた。
最大の見どころでもある“謎解き”。これに関しても永岡さんはいろいろと演出を考えたそうで…。
「コナンの謎解き、年々難しくなっている印象があって…。正直、私も台本を1回読んだくらいじゃとても理解ができません(笑)。でも頭脳明晰な江戸川コナンくんは、私たちが“うう~ん?”と唸っている間にどんどん先に行ってしまうんですよね。そこで、観客の方を置き去りにしないように、例えば今回、怪盗キッドが“6本の刀がある”と話すシーンだったら、セリフだけで終わらせず、キッドのキャラクターの特性を使って、マジックで刀を6本出す、というような描写を加えました。そういう、お客様にわかりやすくする、というのはコナンにおいては結構大事で。というのも、小さいお子さんも観る映画ですからね。その辺は強く意識をしました」
今作でカッコよさを爆発させているのが、怪盗キッド。キザなセリフに華麗な身のこなし。コナンワールドの中で最もエレガントな男性キャラであるキッドの魅力が余すところなく描かれています。
「キッドに関しては、あまり悩みなく描けるんですよね。いつだってジェントルでキザなんだけど時々ちょっとやんちゃで…(笑)、青山先生もお任せしてくれている感じがありました。平次は関西弁のセリフの監修をしていただきつつ、表情を時々修正していただきましたね。私が描くと少し大人っぽくなりすぎてしまうのが、修正を入れていただくと等身大の男子高校生、服部平次になっていたのですごく勉強になりました。そして青子に関するほんのちょっとした仕草があるんですが、後日、先生が“4月から『まじっく快斗』の連載が再開されるんだけど、そこにあの描写を逆輸入させてもらったからね”とおっしゃっていて、すごく嬉しかったです」
スタッフの年齢層が厚い、それもコナンの強み。
前作から3年ぶりに劇場版の現場に戻ってきた永岡さん。今作で演出を務めた大半のスタッフが自身より年下になったことなどから、時の流れを強く感じたと語ります。
「コナン自体非常に長い歴史のあるコンテンツなので、初期から関わっている先輩方もたくさんいらっしゃる。そして、新しい世代もどんどん入ってくる。スタッフが、新人、中堅、ベテランみたいな層を形成しているんです。でもその幅の広さこそが、コナンの作品にしかない厚みを作っているとも思うんですよね。私も約10年前ここに初めて加わったときには、先輩方のやり方を学びつつ、育ててもらったと思っていますし、恩を感じています。その中でもちろん自分自身、失敗もたくさんしています。だからこそ、演出さんから質問をされたら、“私だったらこうするな”とか、“こうしたらこんなことができるんじゃない?”みたいなことを話すことも今回は多かった。そうやってこの作品は大きくなってきたと思うので、私もちゃんと返していきたい。新しい風が入ることで、コナンのアニメーションはもっともっと大きくなっていけるのだと思います」
その、“次にバトンを繋いでいく”というような空気感はアフレコの現場にもあるようで、
「今回も、高山みなみさんの座長ぶりが本当に素晴らしかった。あの現場の回し方、尊敬しかありません。鋭い質問もありながら次々とアイデアを出してくださり、それで作品がどんどんブラッシュアップされていく。コナンの声優チームも、本当に素晴らしいです」
素晴らしい声優といえば、今回のゲストである大泉洋さんの名演も聞き逃がせない。
「他にもたくさん声のお仕事をされていると聞いていたのですが、予想を上回る名演で、私もブースで聞いていて、“わかってらっしゃる…!!”と何度も大きくうなずきました。あと、北海道弁にいろいろアドバイスをくださって、“ここではこういう言い回しをしますよ”など、具体的に監修もしてくださり、感謝しています」
エンディングを彩るのは、ラブソングの名手・aikoさんのバラード、「相思相愛」。
「ファンのみなさんは、平次と和葉は“もうそろそろ…?”という気持ちだと思うんですが(笑)、そのもどかしさやじれったさが今回解消するのかどうか、劇場版を観て確かめていただけると嬉しいです。そして観ていただくお客様には、今回は蘭ちゃんの気持ちになって、平次と和葉を応援してほしい、アシスト精神で。蘭ちゃんのいろんな反応に対して、きっと“わかる~!”と言ってくれる気がします。親友の恋を心配&応援する、あの感じ(笑)。そして最後にきっともう一つ気になる事実を目撃すると思うので…。そこもぜひ、楽しんでください!」
ながおか・ちか アニメーション監督。コナンの劇場版はこれまで『紺青の拳(フィスト)』(’19年)、『緋色の弾丸』(’21年)を監督。他に『うたの☆プリンスさまっ♪』の劇場版2作の監督も。
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』
函館で開催される剣道大会のために、服部平次とコナンたちは函館に。そんな中、「土方歳三の日本刀を狙う」と怪盗キッドからの予告状が届く。同じ時期に倉庫街で勃発した殺人事件には、とある〈お宝〉を狙う武器商人が関わっているようで…。ゲスト声優として大泉洋が出演。原作/青山剛昌 監督/永岡智佳 脚本/大倉崇裕 主題歌/aiko「相思相愛」©2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
※『anan』2024年4月24日号より。作画監督・須藤昌朋 レイアウト・山本泰一郎 原画・寺岡 巌 背景・荘司菜々絵(Y.A.P. 石垣プロダクション)
(by anan編集部)