ドキュメンタリー映像に残る、板に額をすりつけるように一心不乱に彫る姿は一度見たら忘れられない。現代を代表する版画家・棟方志功の大回顧展が始まる。故郷・青森、疎開先の富山、芸術活動の中心地・東京と、各地域との関わりを軸に、1956年のヴェネチア・ビエンナーレの大賞受賞作をはじめ、ゴッホに憧れた若き日の油彩画、生涯取り組んだ「倭画(やまとが)」(自作肉筆画の呼称)、名デザイナーの一面が覗く装丁まで「世界のムナカタ」の全容を紹介。
子どもの頃から強度の近視で後に左目を失明。わずかに見える右目を頼りに創作を続けた棟方は、「板の声を聞き、板の生命を彫り起こす」という信念から自作の版画を「板画(はんが)」と称した。版木に残る鋸目(のこぎりめ)を生かした墨色の面、丸刀で彫った白い線というスタイルを確立。公共建築の壁画を手がけたことで浮世絵以来、本のように眺めて楽しむものだった版画の可能性を拡大した立役者とも。ドラマや戯曲の主人公として繰り返し演じられ、愛用の眼鏡や彫刻刀が「ムナカタ・モデル」として販売されるなど本人への注目度も高かったよう。幸福な作家人生の秘密はどこに? 本物の熱量から感じて。
棟方志功 《飛神の柵》(とびがみのさく) 1968年 棟方志功記念館
棟方志功 《ホイットマン詩集抜粋の柵》「Perfections」》 1959年(1961年摺) 棟方志功記念館
棟方志功 《華厳松》 1944年 躅飛山光徳寺
むなかた・しこう 1903年、青森県に生まれる。1928年、油画《雑園》で帝展初入選。1932年以降、版画に道を定め、文士や民藝運動のメンバーと交流を深める。1956年、第28回ヴェネチア・ビエンナーレ国際版画大賞受賞。1970年、文化勲章受章。1975年没。
撮影:原田忠茂
生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ 東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー 東京都千代田区北の丸公園3‐1 開催中~12月3日(日)10時~17時(金・土曜は~20時。入館は閉館の30分前まで) 月曜休 一般1800円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)
※『anan』2023年10月25日号より。文・松本あかね
(by anan編集部)