主人公は、専業主婦6年目の愛菜。夫の宏之から突然離婚を切り出され、ショックのあまり家から飛び出してしまう。動転した愛菜が弁護士事務所だと思って駆け込んだのは、あろうことか税理士事務所で…。
「私も、マンガ家のアシスタントをやっていたくらいの社会経験しかなく、愛菜の不安や自信のなさなどは理解できたんですよね。基本的に、自分の体験を通して思ったことや感じたことしか描けないので、それをどうリアルに表現するか、担当さんと一緒に試行錯誤しています」
愛菜は、その税理士事務所の岸本から厳しいことをズケズケ言われ、一度は落ち込むし、腹も立てる。だが、スーパーマーケットのスタッフ、フードデリバリーなど人生で初めて働くことに挑みながら、自分が望む未来を模索していく姿は好もしい。
「離婚相談なら普通は弁護士事務所に行くでしょうが、弁護士の出てくるマンガはけっこうあるけど、税理士の出てくるマンガはあまりないので、税理士事務所にしました。身近な知り合いに税理士さんがいたのでイメージが湧きやすかったです。自分自身、マンガ家を生業にしてあらためてお金の仕組みと向き合うことになり、それは世の中の仕組みと通じているんだなと実感したんです。なので、愛菜にも、お金のことから世の中をわかってもらいたくて、税理士と出会ってもらいました」
そんな岸本は、愛菜のメンター的な存在として活躍する。
「彼をもう少しソフトで親切なキャラにしてもよかったのかもしれませんが、展開上『オマエは甘いんだ』と厳しくツッコむ人間が欲しかったんですね。サラサラヘアのツンデレ系が個人的に好きなのもあり、キャラクターデザインとしてもそういうビジュアルにしました」
愛菜がどんな選択をしていくのか、岸本との関係はどうなっていくのか、ハラハラドキドキ。
「いろいろな職業や経験を経て自分のやりたいことがわかってきたりすることってありますよね。愛菜にもさまざまな生き方をしている人と出会って、自分らしい道を決めてほしいと思っています。ただ、愛菜と岸本の関係は、作者の願い通りには発展してくれなくて。まだまだじれったいふたりでいきそうです(笑)」
ハルノ晴『私がひとりで生きてくなんて』1 愛菜との関係に未練がありそうな宏之。一方、互いに意識しながらも、一向に距離が縮まらない愛菜と岸本。波乱の三角関係の行方が気になる。2巻は今冬刊行予定。講談社 748円
はるの・はる マンガ家。『僕らは自分のことばかり』(全2巻)に次ぐ、第2作『あなたがしてくれなくても』(連載中)はドラマ化もされ、大ブレイク。©ハルノ晴/講談社
※『anan』2023年8月30日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)