圧倒的鍛錬と研究。魅せるプロゲーマー。
任天堂の格闘ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』(以下『スマブラ』)は、他の格ゲーと一線を画す人気シリーズだ。最大の魅力は、『スーパーマリオ』のマリオや『ゼルダの伝説』のリンク、『ポケットモンスター』のピカチュウといった名作のキャラクターが各作品を飛び出し、フィールド上でバトルを繰り広げること。どのキャラも愛らしくポップで、「敵を場外にふっ飛ばせば勝利」というルールも個性的。こうした独自システムが世界中から愛され、『DX』『X』『for Nintendo 3DS』『for Wii U』『SPECIAL』とシリーズ化されてきた。その『スマブラ』を主戦場に、国内外の大会で幾度も優勝を重ねる実力者が、プロゲーマーのZackrayさんだ。参戦したのは2017年、高校生の頃だった。
「最初はプロゲーマーになることは意識せず、面白いからやってるだけだったんです。でもオフ(オンラインではなく、実際に対面で対戦する場のこと)に行ってどハマりしてしまって。新キャラが出たら勉強して、部活みたいに必死でした。みんな自分が一番になるために本気で取り組んでいて、もはやスポーツ。相手と真剣に向き合う格闘ゲームは、『スマブラ』に限らず魅力がありますね」
3兄弟で、ゲームが身近な遊び道具だったZackrayさんは、『スマブラ』をやり込んでいた高校2年生の頃、eスポーツチーム「GameWith」から声をかけられ、プロゲーマーの道へ。高校生には相当大きな決断だったのでは。
「そうですね。ただ昔からやりたいことが多いタイプじゃなくて、大学も一応行こうかな、という感じだったんです。本気で取り組むものができたなら、進学するよりプロを選ぶメリットのほうが大きいと思って。例えば海外の大会に興味はあっても、高校生の立場では金銭的にも時間的にも難しい。それが、プロになれば海外に行けるんですよ。これは大きかったですね」
高校生で初の海外遠征を経験し、アメリカ・カリフォルニアで「Genesis 6」へ出場。Zackrayさんは5位という結果を残し、日本人唯一のベスト8入りを果たした。
「現地では目の前のことで精一杯でした。基本的に自信をもって臨むようにはしてますけど、本当は自信があるほうでも本番に強いタイプでもないので。そういう時は気合です(笑)」
2018年には日本eスポーツ連合が発足。年々プレイヤー人口も増え、eスポーツを取り巻く環境は活気づいている。各大会で名を轟かせてきたZackrayさんは、近年の盛り上がりをどう見ているのだろう。
「コロナ禍を経てプレイヤー人口も視聴者も増え、eスポーツ自体が認知されてきた気がします。『スマブラ』は任天堂公式大会がなく、いずれも非公式大会ですが、そのほとんどが1000人規模の参加者を誇ります。eスポーツ全体がいい状況にあるんじゃないかと思います」
ネットコンテンツが身近な昨今、配信を通じてYouTuberに次ぎプロゲーマーも子供たちの憧れの存在になっている。
「ありがたい話ですよね。リアルスポーツだと高校生と大人が一緒にプレイする機会も、2~3年で第一線級になることも少ないですが、eスポーツは10代前半から競技に出られます。悪く言えば浅いけど、競技人口も増えやすいし気軽に目指せるのが良いところなんです。ただ職業というにはまだ心細いかなという思いはあります。普段の活動も不透明ですし」
確かに謎の多いプロゲーマーの生活。一般的にどんな一日を過ごしているのだろう。
「日本だとゲーム配信をしている人が大多数です。僕も頻度こそ多くはないですがたまに配信をして、1日1本の動画もアップしています。基本的には起きてから寝るまでずっとゲームをやってますね。『スマブラ』は仕事でもあるので、ひと通りやって疲れたら息抜きに他のゲームを触る感じです。少し前は『スプラトゥーン3』、最近は『League of Legends』ですかね」
では、Zackrayさんがプロになって変わったことは?
「大きく変わることはなかったように思います。ただ、僕も年月を重ねて、最近は見てくれる人のことを考えながらやっていこうと思うようになりました。普通に考えればプロになった時点でそうするべきなんですけど、当時は余裕もなくて」
昨年は5対5のチーム戦を行う『ポケモンユナイト』にも参戦。チームプレイとなるとまた違う感覚が必要になりそうだ。
「違いますね。自分だけの責任じゃないという緊張感もありますし、一人なら負けても『悔しい!』で済みますが、チームだと申し訳なさがすごくて。ケンカしたこともあったけど、勝った時の喜びは大きかった。本当にいろんな感情がありました」
現在、プロになって5年目。実はeスポーツプレイヤーはリアルスポーツに比べて引退が早いともいわれている。Zackrayさんは今後の展望をどのように見定めているのだろう。
「モチベーション次第だと思います。年々反応速度が遅くなるといわれていますけど、人によるでしょうし、急激に老いることもない。体を使うわけじゃないからゲーム内で動けなくなることもないですしね」
今後も、引き続き大会への参加は行っていくという。
「3年ほど前はできるだけ経験を積みたくて、月イチくらいでできるだけ出ようとしてました。今は数多く出るよりは、出場を絞ってやっていこうかなという感じですね。そのほうがやりやすいかなって。半分くらいは気分なんですけどね」
ザクレイ 2002年、東京都生まれ。プロゲーマー。’17年『大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U』の大会に参戦。2019年にはカリフォルニアの「Genesis 6」、デトロイトの「The Big House 9」に出場。’22年に「GameWith」から「DetonatioN FocusMe」の所属に。
※『anan』2023年8月9日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) ヘア&メイク・MIZUHO(VITAMINS) 取材、文・飯田ネオ
(by anan編集部)