――ストイックなカリスマ・パーソナルトレーナーの御神(みかみ)そよぎ(トリンドル玲奈)に、毎週土曜日に“禁断の夜食”を振る舞う月読は、ミステリアスな人物ですね。
萩原利久(以下、萩原):原作コミックを読んだ時は違和感がなかったんですが、いざ演じてみると、ミステリアスと不審者は紙一重だと思いました。だって、夜にいきなり現れたり、そよぎさんの家に突然行って料理を作ったりするんですから。でも怖いと思われたら終わりだと思ったので、ミステリアスの範疇に収まるようにと、撮影の前半は探りながら演じていました。
――月読の魅力は、どんなところに感じていますか?
萩原:月読は、マイルールを徹底的に守り抜く精神を持つ人。料理がうまくて、精神年齢の高いハイスペック男子だと思います。細かい気遣い一つにも100点を出せるんですが、ある一部分だけ急に20点だったりして。そこからピュアな性格も見えて、そのギャップも、魅力的だと思います。だから、クールとかミステリアスという言葉に引っ張られて淡々と演じてしまうと、それはそれで魅力が減ってしまうような気がして。砕けたところと決めるべきところを、シチュエーションによって使い分けて演じています。
――お料理をしながらのお芝居は、大変だと思います。
萩原:シンプルに難しいです! 普段やらないので、手元がおぼつかないし、料理に必死になるあまり下を向きすぎて顔が映らないとか。
――撮影前から、キャベツの千切りをたくさんして、料理の練習をされたそうですね。
萩原:そうなんです。料理の工程は、現場で教えていただきながらやっているのでなんとかなると思ったんですけど、包丁さばきだけはさすがに練習しておかないと…と思って。基本、キャベツオンリーでやっているんですが、キャベツの千切りが溜まる一方で(笑)。とりあえず、冷凍庫に入れています。
――撮影が進むにつれ、料理の楽しさを感じられるようにも?
萩原:う~ん。今はまだ“やらなくちゃいけないもの”になっているので、楽しさを感じるよりも“やるぞ”っていうマインドの方が強いですね。それに撮影中は、これをしながら次あれをして、って考えながらやっていて、楽しみというよりは修業に近いかも(笑)。でも、毎回出てくる料理は、現場でスタッフさんたちが、どうすればより美味しく見えるかにこだわって撮影しているので、料理を楽しめる作品にもなっていると思います。
――座長としてどのような意気込みを持っていらっしゃいますか?
萩原:クランクインして半月以上経ちますが、実はまだトリンドルさんと、月読の兄役の浅香(航大)さんとしかご一緒していないんです。こんなに他の方と会わない主演は初めてで、この前、制作発表でキャストの方々と会った時も「はじめまして」とあいさつしたぐらい(笑)。だから、今のところあまり座長感はないです。
セリフのラリーは、受けのラリーによってうまくいく。
――萩原さんは子供時代に『めちゃイケ』で“オカレモンJr.”を務めていたというユニークな経歴もお持ちですが、役者になったきっかけは、どんなことですか。
萩原:この世界に入りたかった一番の理由はすごくシンプルで、目立ちたかったからです(笑)。小3の頃に流行っていた小島よしおさんに会いたかったですし、学校で人気者になりたいとか、注目されたいと思ったのがはじまりかも。最初は子役として違う事務所に入っていたんですが、中1の時に菅田(将暉)さんと兄弟役で共演することがあって。それまではほとんどの現場で、子役という立ち場だったのですが、その現場では一役者として接してくださったんです。それで、緊張してかちこちになっていたら、菅田さんが声をかけてほぐしてくれて。その現場で初めて、人が芝居をしているのを自分の目で見て、しっかり芝居をした気がします。それで菅田さんの事務所に入りたい! と、今の事務所に移籍しました。
――当時は、どんな役者になりたいなどの理想のようなものは、明確にあったのでしょうか。
萩原:どんな役者っていう以前に、ちゃんと芝居をしてみたいという気持ちが強かったと思います。それまでの芝居は、習い事の延長みたいな感覚でいたので、そうではなく学びたいって。そう思ったのは、たぶん、大勢の大人たちが一つの作品を作るために一生懸命アイデアを出して、話して、働いて…という姿を見たからかもしれません。学校に行っている時期って、大人が働く姿を意外と見ることはないですよね。それで、今まで自分はなんとなくふわふわやってきたけど、あの大人たちの中に入ってみたい、一員になりたいと思ったんだと思います。
――そこから10年以上経ちますが、この先も役者一本で?
萩原:一生これをやっていく、と決断したことはないかもしれません。僕は興味があることとないことの差がすごくて、習い事も全然続かないタイプで。でも役者の仕事は、今続いている時点で、興味があるのは間違いない。逆に言えば、興味がなくなったら辞める可能性もあるということですが、ありがたいことに主演などもやらせてもらって、毎日楽しいです。
――他の役者さんから、お芝居の刺激を受けるのはどんな時ですか。
萩原:直接、芝居のやりとりをしている時が多いかな。それこそ、自分が想像していなかった芝居が出てきたりとか、何か今ハマった気がするとか、そういうものが見つかった時ですね。あとは、自分にはできないことができる役者さんに出会った時とかも。
――例えば?
萩原:僕は集中力が長時間続かないタイプだから、スイッチのオンオフを結構カチカチと小刻みにしているんです。だから、朝から晩までとか、“段取り”の段階から全力投球し続けられる人を見ると、スペックの違いを思い知らされて「この人すごいぞ」って思います。例えば、映画『牛首村』で主演を務めたKōki,さんとか。初主演なのに、朝イチで泣くシーンの段取りから全力でお芝居をしているのを見て、座長としてみんなを引っ張っていて、すごいなって思いました。
――演じるのにいろんなタイプの人がいる中で、萩原さんは省エネタイプなんですね。
萩原:省エネです。100あるパワーを小刻みに減らしていく感じ。いろんなやり方をしていった結果、このやり方がベストコンディションでいられると思いました。
――役者として、大切にしていることはなんですか?
萩原:人の話をよく聞くことです。普段人と話す時って、相手の話をちゃんと聞かないと、会話が成り立たないじゃないですか。台本なんてないから。一方で、お芝居をするうえでセリフの覚え方はいろいろあると思いますが、僕の場合は、相手のセリフの最後の5~6文字をきっかけに、次の自分のセリフに繋がるという覚え方なんです。これって、日常会話と同じで、相手の話や言葉をちゃんと聞いているから出るセリフだと思っていて。もし、相手の話やセリフを聞かずに芝居をすると、急に芝居くさくなってしまうと思いますし。
――お芝居は“受け”が大事だとも聞いたことがあります。
萩原:僕もそれは痛感しています。受けがうまい役者さんは、こっちの投げたボールを、思ってもない方法で返してきたりするんですよね。それをまたこちらがどう受けるか。セリフのラリーって、受けのラリーによってうまくいくんだとも思っていて。だから、シンプルですけど、相手の話を聞いて受けることが大事だと思ったんです。
毎週土曜日に、パーソナルトレーナーの御神そよぎに禁断のお夜食を振る舞う、謎の料理男子、月読悠河。ストイックなあまり食に興味を失っていたそよぎは、月読の夜食を食べるうちに、食の楽しみを取り戻していく。新たな展開を迎えるドラマの後半に注目! 主演を務める土曜ナイトドラマ『月読くんの禁断お夜食』は、毎週土曜日23:30よりテレビ朝日系にて放送中。
はぎわら・りく 1999年2月28日生まれ、埼玉県出身。9歳から子役としてドラマや映画、バラエティ番組に出演。放送中の土曜ナイトドラマ『月読くんの禁断お夜食』(テレビ朝日系)をはじめ、ドラマ&映画『美しい彼』シリーズほか主演作多数。出演映画『おとななじみ』も公開中。
ニット¥40,700 パンツ¥35,200(共にフィル ザ ビル/フィル ザ ビル マーカンタイル TEL:03・6450・3331) シューズ¥29,700(ヨーク/HEMT PR TEL:03・6721・0882)
※『anan』2023年5月31日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・Shinya Tokita ヘア&メイク・カスヤユウスケ インタビュー、文・若山あや
(by anan編集部)