大人も夢中! 異世界の住人たちの自由奔放な絵物語。
石黒さんといえば、独自のキャラクターを描き込む熱量が圧倒的。それゆえ引き込まれる人も多いだろう。
「石黒さんの作品には妖怪、化け猫、不思議な生き物たちなど、私たちのDNAに刻み込まれているモチーフが現代的なセンスでダイナミックに描かれています。パッと目を引くフォルム、異世界の恐ろしさや不気味さをちょっぴり感じさせるキャラクターたちが面白く、かわいらしい。巧まざるユーモアも魅力です」
と世田谷文学館学芸員の瀬川ゆきさん。また一枚の絵として眺めたときの楽しさについてこう語る。
「脇役やモブ(その他大勢)も含めて、絵の隅々まで細かい設定のもと描き込まれているので、つい背景にある物語を読み解きたくなってしまうのです」
和紙に筆で描くのが石黒さん流だが、印刷では伝わりにくい「毛筆の線のふくよかさやキレ」はぜひ会場で自分の目で確かめてほしいと瀬川さん。そのほか本番の別バージョンというべき迫力を持つ下絵の展示や、ぬいぐるみ作家・今井昌代さんとのちょっと変わった仕掛けのコラボレーションコーナーもお楽しみだ。
絵本のストーリーテリングでは自由奔放、下ネタまでOKなおおらかさを見せると同時に「絵師」として異彩を放つ石黒さん。この存在感、現在の日本でどう位置付けられる?
「日本美術には曾我蕭白(しょうはく)や歌川国芳、河鍋暁斎(かわなべきょうさい)といった奇想天外な発想で作品を生み出した鬼才がいますが、石黒さんはその流れを継承する作家ではないかと思います。対象へのゆるぎない愛情とこだわりが作品から立ち上り、清々しいまでに自由。オタク文化や推し活が人びとの心の支えにすらなっている現代日本で、石黒さんの作品に人気が集まるのは、当然すぎるくらい当然のことなのかもしれません」
《どっせい!ねこまたずもう》2018年
新作《化け猫天邪鬼成敗絵図》とんいち 2023年
新作《地獄十王図》 2022年(部分)
絵本の中の石黒ワールド。
『いもうとかいぎ』では姉の横暴に耐えかねた不思議生物の妹たちが奮起。『えとえとがっせん』は絵本が突然縦開きになり、クライマックスがバーンと出現する楽しさも。
『いもうとかいぎ』(ビリケン出版 2016年)
『えとえとがっせん』(WAVE出版 2016年)
石黒亜矢子展 ばけものぞろぞろ ばけねこぞろぞろ 世田谷文学館 2階展示室 東京都世田谷区南烏山1‐10‐10 開催中~9月3日(日)10時~18時(入場は17時30分まで) 月曜(7/17は開館)、7/18休 一般1000円ほか TEL:03・5374・9111
※『anan』2023年5月24日号より。取材、文・松本あかね
(by anan編集部)