数々の賞に輝いた一大傑作戯曲に“演劇にイカれた”俳優たちが集結。
「同じ企画で上村聡史さん演出のフルオーディションで上演された舞台『斬られの仙太』を観た時、俳優さんたちの熱量の高さに驚かされたんです。全員がこれをやりたいと思って集まった人たちで、観ていてもそれが伝わってくる。今はキャスティングありきの作品が主流だけど、そうじゃないところからお芝居を作るっていうことがあっていいし、そこに参加したいと思ったんです」
山西惇さんといえばドラマ『相棒』などで活躍する人気俳優。それでも敢えてオーディションに参加することに抵抗はなかったのだろうか。
「一次審査の最初に言われたのが、主催側が俳優をオーディションする場であるのと同時に、俳優側もこの企画や主催側をオーディションする時間でもあると思ってください、と。なんかすごく腑に落ちたんです。いわゆるコンテストではなく、演出の上村さんの描くイメージや、全体のバランスを見ながら、ぴったり合う人を探していく場なんだなと」
他にも鈴木杏さんや元宝塚トップスター・水夏希さんの名前が並ぶ。
「そもそもこれをやりたいなんて、自分を含めて演劇に対してイカれてる人たちしかいないわけで(笑)、最初から志を同じくする人たちが8人いる状態はすごくいいですよね」
1980年代、死の病だったエイズの恐怖に怯えていたNYを背景に、ジェンダーや宗教、人種問題や政治などで混沌とするアメリカの世情を、群像劇によって浮き彫りにした本作。
「劇的に何かが大きく動く話じゃないのに、ずっと観ちゃうのはなんなんだろうって思うんです。まず、ひとつひとつのシーンがギュッとコンパクト。その終わりに必ず登場人物の状況が変わるから、台本を読んでいる僕らも、この次どうなるんだっけって気になるくらい。懐石料理みたいなんですよね。次にどんなお皿が出てくるのか予測もつかないまま、どんどん引っ張られていって、最後には大団円を迎える。構成が巧みなんです。観劇って、僕は精神の旅行に近い気がしているんですけれど、この作品は登場人物たちと一緒に外の景色をゆっくり眺めながら目的地に向かっていたら、すごく遠いところに連れてきてもらえるような。僕らも稽古しながら、予想外に笑えたり、人のシーンで涙が出たり、台本を読んだ時点では想像していなかったような体験をしているくらい」
演じるのは弁護士のロイ・コーン。勝つために手段を選ばない剛腕で、アメリカでは“悪名高き”との枕詞で語られる実在の人物がベースだ。
「やってきたことはたしかに悪いことかもしれないけれど、そのおかげで今のアメリカがあると言えなくもない。本人はひねくれ者というか(笑)、ユダヤ系の出自ながら反ユダヤを煽動したり、ゲイでありながら世間への発覚を恐れて過剰に否定したり、すごく人間くさい。悪徳な面も出しつつも人間くささをうまく表現できたら、とても魅力的な人物になるんじゃないかと思っています」
『エンジェルス・イン・アメリカ』 1985年のNY。同棲中の恋人・プライアー(岩永)から、自身がエイズだと告げられたルイス(長村)は、職場で裁判所書記官のジョー(坂本)と親しくなる。一方のジョーは、剛腕弁護士のロイ・コーン(山西)から司法省への栄転を持ちかけられ…。4月18日(火)~5月28日(日) 初台・新国立劇場 小劇場 作/トニー・クシュナー 翻訳/小田島創志 演出/上村聡史 出演/浅野雅博、岩永達也、長村航希、坂本慶介、鈴木杏、那須佐代子、水夏希、山西惇 A席7700円 B席3300円 Z席(当日券)1650円 一部・二部通し券1万3800円 新国立劇場ボックスオフィス TEL:03・5352・9999 https://www.nntt.jac.go.jp
やまにし・あつし 1962年12月12日生まれ、京都府出身。劇団そとばこまちを経て、映像作品のほか、こまつ座、ナイロン100°Cなどさまざまな舞台で活躍。ドラマ『相棒』は全シリーズに出演。
撮影:藤記美帆
※『anan』2023年4月19日号より。インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)