大丈夫な自分になりたい。でも、ならなくても大丈夫と熱くエール。
「私も仕事がなかなか、にっちもさっちもいかなくなった時期があったんです。もねのように『大丈夫になりたい』と思いつつ、やり過ごしていた実体験が発想のきっかけです。翻案していますが、もねが味わう焦りや落ち込み、ちょっとしたきっかけで快復する心情のアップダウンを描く上での手がかりにしています」
もねを面白がりつつおおらかに見守る幼なじみの早瀬や、書道教室の爽やかお兄さんで大丈夫を体現しているゲンローさんこと玄郎(くろう)、衝突しがちなもねの母など、もねと周囲の人たちとの交流が楽しく、それぞれにいい味出しているキャラクター。なかでも芦川さんの存在感は大きい。
「話し手と聞き手の両方がいた方がストーリーを動かしやすいというのはあるのですが、『自分にも芦川さんみたいな人がいたら、もう少し気楽だったかも』という気持ちもあったのかも。見た目に関しては、試行錯誤した末に、いまの丸っこいフォルムになりました」
3巻に入ると、もねが偶然知り合ったアキラと再会したり、芦川さんと謎の探偵事務所との縁が見えてきたり、作中作を含め宇宙というモチーフが作品全体とつながってきたりと、物語はさらに波乱の展開に。本作の裏テーマでもある〈ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)〉=いまいる場所を大丈夫な場所にする大切さが、いっそう色濃くなる。
「失敗したくないと思ったところで失敗してしまう時はしてしまうもの。ただ、失敗していま大丈夫じゃなくても仕方ないことだと受け止められるようになれたらいいね、というメッセージは伝えたいです」
本作は、上から下へ縦にスクロールして読む形式で連載が始まったのだが、ふつうの横開きのマンガ形式にも対応している。
「画面を作る上で考えなくてはいけない条件がまったく違うので、最初は挑戦でした。スクロール形式は自分のテンポで読むアニメみたいな印象なんです。そんな縦読み用のギミックも入れつつ、ページをめくると大胆に場面展開できる横読みならではのダイナミックさも取り入れて、どちらの読者にも楽しんでもらえる作品を目指したいですね」
井上まい『大丈夫倶楽部』3 現在、ウェブトゥーン「マンガ5(ファイブ)」で連載中。出張掲載としてウェブサイト「路草」でも一部読める。1巻は書籍と電子書籍、2~3巻は電子書籍のみ。レベルファイブ 748円
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いのうえ・まい マンガ家。大阪府出身。2013年商業誌デビュー。’17年、小学館『ゲッサン』にて「春のムショク」(完結済み、全4巻)を初連載。
※『anan』2023年4月19日号より。インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)