『変な絵』が33万部突破! ホラー作家・雨穴が明かす“ぞっとするもの”の書き方

エンタメ
2023.03.31
ぞっとするけど見たくなる。日常と地続きの世界にある違和感を描き出した作品などで多くの人から熱い支持を集めるホラー作家でありYouTuberの雨穴さん。大ヒット中の長編小説『変な絵』をはじめとする作品の作り方を直撃しました!
uketsu

――名前の由来を教えてください。

名前をつける時に自分は何が好きなんだろうと考え、思い浮かんだのが雨と穴でした。どちらも、ちょっと落ち着く暗い感じのイメージで自分に合っているなと。作風とのリンクは特に考えていなかったですが、後々になって考えると作風に合っていたなと思います。

――黒いボディと白い仮面の姿は、一度見ると頭から離れません。

ネットで活動を始めるうえで、一番目立たない格好は何かと考えた時に、歌舞伎の黒衣のような真っ黒な裏方みたいな姿がいいと思ったんです。でも、意外と黒衣は顔部分の構造が複雑で、自作するのが難しく仮面で代用したんです。すると普通の格好よりもずっと目立つようになってしまいました。

――動画や小説は、どのように作られているのでしょうか?

どの動画も小説も最初は小さなアイデアから始まっています。私はもともと面白系のウェブメディアで活動していて、そういうメディアではちょっとしたアイデアや大喜利的な考えをもとに記事を作るんですけど。まずは、AとBをくっつけたら面白そう、みたいなアイデアをたくさん出し、そこからホラーだったり、お笑い系の展開へと繋げていく。どういう雰囲気になるか、絵面になるかということを想像しながら、話をだんだん膨らませていく感じです。

――『変な絵』の時はどのように膨らませていったのでしょうか?

本を書く1年前に、YouTubeで「消えていくカナの日記」という絵を題材にした動画を作り、その時に手応えがあったので、絵で一冊本を書こうと思いました。最初は、子どもの描いた絵が、ただの図形に見えるんだけど、実はそこに別の意味があった…という小さなアイデアだったんですけど。これを絵のホラーと繋げると面白くなるんじゃないかと。

――アイデアが出てから完成までの時間はどのくらいですか?

3~4か月くらいだと思います。自分の場合、最初に小説のように文章を書いていくうちに話として膨らんでいくので、かなり時間がかかるほうだと思います。

――苦労したことはありますか?

第1章に絵の仕掛けがあるんですけど、成立させるために絵をミリ単位で調整しながら作っていくのが結構難しく、手間取りました。第3章に関しては今までやってこなかった本格的な推理サスペンス小説みたいなものに挑戦したので、苦しかったところも。

――今作はミステリーであり、母性もテーマになっているとか。

母性は誰しもに芽生える可能性があるものだと思っていまして。私はずっとウサギを飼っていて、誰かに傷つけられたら相手を攻撃してしまうんじゃないかという怖さがあるんです。“大切な存在のため”と大義名分が生まれることで、誰かを傷つけてしまう、母性が悪い方向へいってしまった時の感情を書きたいと思いました。

――図解がたくさん入っていてスムーズに読めることも、雨穴さんの作品の魅力かと思います。

たとえば教科書の文章を読んでいて、「この内容は図35を参照」と書いてあるのに、ページの中に図35がなく、戻らなきゃいけなくて読みづらいことがあると思うんです。教科書であればいいかもしれないですが、エンタメの場合、ちょっとでも読者に負担がかかってしまうと読まなくていい原因になるのかなと。記事と文章の間に図解を挟んでいく考え方は完全にウェブ記事の書き方と同じで、それを小説というフォーマットに落とし込もうというのは、1作目からずっと意識していたことです。

――動画の場合はいかがでしょう。

最初にウェブ記事を原作として書いてから動画にするという工程で1~2か月ほどで作ります。記事も動画もすべて無料で公開しているのですが、「無料」というのは多くの方にアピールできる半面、最後まで見てもらうのが難しい、というネックがあります。特に動画は、面白くなければ最初の10秒で切られてしまうようなシビアな世界です。ですので、インターネットで公開する作品は最初から最後まで飽きさせない工夫をしています。例えるなら、尻尾まであんこたっぷりの鯛焼きのような感じです。

――『変な絵』に登場するブログが実際にネット上に公開されているなど、雨穴さんの作品は現実世界と地続きになっているようなリアルさが読者を引き込む一因に。どんな工夫をされていますか?

ミステリーは筋書きが一番大切ではあるんですけど、それだと段取り芝居のようになり、ちょっと作り物みたいになってしまうところがありまして。そうならないように、登場人物を作った時に、“こういう行動をとってくれたら物語的にはスムーズだけど、この人はそうはしない”“でも、それだとミステリーとして成立しない”という2つの間の、ちょうどリアルな登場人物の動きに気を配ることを心がけています。

――見る人をぞっとさせるという点ではいかがですか?

たとえば、“助けを求める人が書いた手紙”を作る時は、実際に監禁されて閉じ込められて苦しんでいる人がどういう文字を書くかという部分を一生懸命考えることを大事にしています。見た感じに怖いものを作ろうと思うと、怖そうな文字や、「血みどろ」みたいな言葉をたくさん使うようなことになると思うんですけど。そうじゃなくて、それを書いている人が本当にいるというふうにイメージし、“極限まで心を理解することを考えると、怖がらせはしないけど、ぞっとするもの”が書けるのかなと、自分では思っています。

uketsu

うけつ ウェブライター、ホラー作家、YouTuber。オカルトのエッセンスや工作を取り入れた作風が特徴で、YouTubeでは自身がストーリーテラーとなる動画を中心に投稿を行う。『変な家』(飛鳥新社)に続く最新作『変な絵』(双葉社)は33万部を突破し、各書店の売り上げランキング1位を独占するなど大きな話題に。

ブログに投稿された風に立つ女の絵、消えた男児の描いた灰色に塗りつぶされたマンションの絵、山奥の遺体が遺した震えた線で描かれた山並みの絵…。9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは。長編小説最新作『変な絵』は、現在発売中。1540円/双葉社

※『anan』2023年4月5日号より。写真・雨穴 インタビュー、文・重信 綾

(by anan編集部)

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