「姉妹って、女友だちとも違う。切っても切れない何かがある関係だと思うんです。最初にあったのは、姉妹の本当に濃密な、魂のぶつかり合いを描きたいという気持ちでした」
母の葬儀の日、8年ぶりに顔を合わせた姉のじゅんと妹のらん。
小さいころから、じゅんはらんに対して「自分のものを勝手に奪う人」と感じ、らんはじゅんに対して「自分は姉ほど愛されない」とコンプレックスを募らせていた。さらに、母をめぐる確執もある。そうしたもやもやがはっきりとした断絶になった原因は、らんの夫・律の存在。律はかつて、じゅんの恋人だったのだ。
らんの結婚により、音信不通になるほど険悪になっていた姉妹。ところが、母の遺した家で、律を交えた奇妙な同居をすることに。姉と妹夫婦で、キッチンやリビングは共有するしかないし、喫煙者のじゅんと律は、縁側で並んでたばこを吸うこともめずらしくない。物理的に近づいてしまったふたりは、うまく心理的な距離感がつかめなくなっていく。
「芸能人とかの不倫がすごく叩かれていた時期がありましたよね。褒められたことではないけれど、なかには『人間なら、理性だけではどうにもならない感情もあるのでは』という疑問も湧いてきて。そこで、不倫要素も足しました。正しさだけが正解ではないし、正しいことしか描かないマンガを描きたいわけでもない。むしろ、人間だから絶対に間違うけれど、大切なのは間違ったあとでどうやり直していくかだと思っているんです。間違うからこそ人間は面白いんじゃないかなと」
3巻では、急接近していくじゅんと律の関係の変化や、らんが自分の知らなかった本心に気づく瞬間などが描かれる。
「描き進めるにつれて実感しているのが、じゅん、らん、律それぞれに私と似たところがあるなということ。無意識に、私自身の性格や心情を一部投影しているみたいですね」
そして、予測不能のストーリーを盛り上げるのが、ばったんさんのしっとりしたタッチだ。リボンや煙などたゆたうモノが印象的に使われていて、うっとりしてしまう。それ以上に惹きつけられるのは、感情豊かなキャラクターたちの表情だ。
「私、女性がにっこりしているのより、泣いたり怒ったり感情を爆発させている表情が好きなんですね。そういう顔を描きたくて、波乱を起こしているのかもしれません(笑)」
ばったん『けむたい姉とずるい妹』3 3巻にはおまけとして、コミックス表紙の別案イラストと、ばったんさんの愛犬〈つる〉ちゃんとの微笑ましいワンダフルライフも収録。4巻は5月に刊行予定。講談社 748円 ©ばったん/講談社
※『anan』2023年2月8日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)