「本来は言葉にできないものを言葉にしてみよう、という試みだったのかなと思っています」と、島本理生さん。新作『憐憫』の主人公は10代から俳優と活動してきた沙良。27歳となり行き詰まりを感じている折、バーで柏木という男と出会う。彼を見た瞬間に心にあふれたのは“憐憫”だった――。

どうしようもなく共鳴しあう男女の不思議な関係とその行方。

Entame

「住む世界も人間関係も経験も全然違う二人が、相手の人格も一切知らない状態で会った瞬間から精神的に惹かれあうイメージがありました」

彼らは逢瀬を重ねていく。

「周囲が見たら二人の関係は“恋愛”かもしれないけれど、本人たちの気持ちは違う。相手の中にある、自分と同じ弱さに共鳴しているというか」

弱さというものは、乗り越えたほうがよいとされがちだが、

「果たして本当に要らないものなのかなと思うんです。それが一切なくなったら効率性だけ重視した現代人ができる気がして。私は人を書く時、弱い部分まで掘り下げたい。なので今回はそれを否定するのでなく、お互いに大事にして共鳴しあう関係を書きたかったです」

理解の足りないマネージャーや沙良の成長を望まない夫に疲弊する生活のなか、柏木と共有する時間は沙良に安息をもたらす。しかし柏木は失踪願望を吐露するような、どこか危うげなところもあって…。

沙良を俳優という職業にしたのは、

「10代の頃は単純に、テレビに出る仕事って華やかだなと思っていたんです。実際にそういう人に会ったり自分が人前に出るようになって、誰もに知られて四六時中見られているのは、すごい緊張感だと気づきました。そういう世界で戦っている女の人を書きたかった。沙良や彼女の周囲にいる、自分の名前で活躍する女性たちの強さや、いい意味での傲慢さは書いていて楽しかったです」

ただ、沙良は子役時代からの紆余曲折を引きずっている様子だ。

「若い頃の成功には、本人の努力以外に周囲の期待や協力など過剰なエネルギーもあったと思う。沙良のように大人と子供の境がないままにここまで来てしまった人は、もう一度、自分の意志で納得して成功することが必要じゃないのかと思いました」

積み重ねていく時間のなかで、沙良が見つけるものは何か。濃密な心の軌跡をぜひ、ご堪能あれ。

島本理生『憐憫』 10代から子役として活動、最近は目立つ仕事がない27歳の沙良。日常に倦むなか、偶然出会った一人の男に抱いた感情は、憐憫だった。朝日新聞出版 1540円

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しまもと・りお 2001年「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞。’03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、’15年『Red』で島清恋愛文学賞、’18年『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。
撮影=朝日新聞出版写真映像部(高野楓菜)

※『anan』2022年12月14日号より。写真・中島慶子(本) インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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