意外と知らない社会的な問題について、ジャーナリストの堀潤さんが解説する「堀潤の社会のじかん」。今回のテーマは「トランプ関税」です。


アメリカの強硬策。日本の軍事化が進む心配も……。

トランプ大統領は、世界中の国を対象にほぼ全ての輸入品に一律10%、国別にさらに関税を上乗せすることを宣言。各国から反発がありつつも個別交渉が始まっています。中国には145%の追加関税をかけるとし、中国は報復関税を訴え高関税の応酬になっていましたが、5月12日、90日間、相互に115%引き下げで合意しました。

トランプ政権の相互関税政策は、場当たり的に見えますが、実はシナリオがあります。大統領経済諮問委員会の委員長である経済学者のスティーブン・ミラン氏が昨年11月に出した論文が青写真といわれています。論文によると、政策には段階があり、まず高い関税をかけ各国を動揺させ、そこから交渉を始める。高い関税をかけてアメリカの製造業を一定期間守り、交渉する間に、競争力を回復させる。相手国との交渉ではアメリカのアライアンスなのかを確認し、アメリカと商売をしたいならと条件を提示。一つはアメリカの超長期国債を買わせること。もう一つは、アメリカが世界の防衛と安全保障を担いすぎているので、軍事費を増やすよう迫るというものです。

高い関税を課せば、アメリカに入るものの値段は上がりますが、相手国の為替が下がれば、アメリカではほぼ変わらぬ価格で購入できます。輸出がストップしないよう相手国が為替安になることを期待しているんですね。実際、中国は人民元を為替安に誘導しました。ちなみにこの論文では、この政策を急激に進めると、混乱とショックの後遺症が深刻になると書かれていました。

今年は日米欧州が協調してプラザ合意をしてから40年になります。当時もアメリカの経済が悪かったため、ドル安に誘導するよう世界が協力しました。今後令和版プラザ合意のようなものがなされる可能性もあります。いずれにせよ日本の輸出産業は厳しくなります。

安倍政権では安保法制を、岸田政権では安保三文書を整備しました。今回のトランプ政権の強硬策により、日本の軍事化が進むのではという懸念があります。対抗策としては、日本にしかない技術を生み出すことに力を入れ、個別交渉でも強気で発言できる体制を整えていくことが必須だと思います。

Profile

堀 潤

ほり・じゅん ジャーナリスト。市民ニュースサイト「8bitNews」代表。「GARDEN」CEO。『堀潤 Live Junction』(TOKYO MX月~金曜18:00~19:00)が放送中。新刊『災害とデマ』(集英社)が発売中。

写真・小笠原真紀 イラスト・五月女ケイ子 文・黒瀬朋子

anan2448号(2025年5月28日発売)より

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