ボリューム満点、いわばすき家的な展覧会です。
「今回は僕が20年間携わってきた仕事のほぼ全てが一堂に会する大規模な試みです。CDジャケット、本の表紙などイラスト作品と原画をカテゴリーごとに紹介します。とにかくボリューム満点にして美術ファンや僕を知らない人でも、これだけ見れば十分お腹いっぱいになる。すき家的な発想なんです(笑)」
会場で驚くのはその仕事の幅広さ。
「イラストレーターになってずっと幅広い世代に向けて描きたいと思ってきました。例えば教科書。僕自身、何年も教科書を使っていたはずなのに、いま表紙を思い出せるものは一冊もない。当時は学生よりも学校向けに、きっと無難な表紙が重視されたのでしょう。でもそれじゃ学んだことも記憶に残りにくいはず」
そう考える彼の教科書は、学生の記憶に強烈なインパクトを残す。他にもさだまさしや浅田飴など、年配ファンが中心だったアーティストや企業からも注目されている。なぜこれほど多くの人の心に響くのだろう。
「子どもの頃から従来の広告やパッケージ写真にずっと違和感があったんです。例えば有名人が商品を手に満面の笑みでこっちを見ている。それって、“私のこと知っているならこの商品買ってよね”と言わんばかりの威圧感で、引いていた」
匿名性を重視し、あえてセーラー服や目線のない横向きの女の子の構図を採用。不自然な笑顔も必要としないフラットな絵は、都会的なのにどこか懐かしい。その根底に流れるのは観る人を想う気持ちだ。
「例えば、男性が描く女性キャラクターは、体のラインや露出度を強調したものも多い。デフォルメだとしても不快に思う人もいますよね。僕も女の子のモチーフを多用しているからこそ、誰が見ても心地よく感じられる作品を作りたいんです」
2004年リリースの『ソルファ2004ver.』の再編集ジャケット。「芯が太くなった彼らの演奏をそのまま表現するように描きました」
ASIAN KUNG-FU GENERATION『ソルファ(2016)』©Ki/oon Music
2010年放送のTVアニメ『四畳半神話大系』から進化させた本作は「以前と同じ印象を大切にしながら、さらに進化したデザインに」。
©2022 森見登美彦・上田誠・KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」制作委員会
2013年から高校音楽教科書の表紙画を担当。「この教科書を使っていた学生は、いま僕の作品を見て懐かしさを感じるそうです」
「高校生の音楽1(平成29年~)」(教育芸術社)
明治20年創業「浅田飴」から2020年に登場したのど飴。これまでのイメージを払拭したポップな缶で、販売先には問い合わせが殺到した。
浅田飴糖衣P(白桃)〈指定医薬部外品〉
『中村佑介20周年展』 東京ドームシティ Gallery AaMo 東京都文京区後楽1‐3‐61 東京ドームシティ クリスタルアベニュー沿い 開催中~2023年1月9日(月)11時~19時(金曜は20時まで。入場は閉場の30分前まで) 月曜(12/26・1/2・1/9は開館)休 一般1200円ほか TEL:03・5800・9999
なかむら・ゆうすけ 1978年、兵庫県生まれ。大阪芸術大学卒業。アニメのキャラクターデザイン、ラジオ制作、エッセイ執筆など多方面で活躍。CDジャケット全集『PLAY』(飛鳥新社)発売中。
※『anan』2022年11月23日号より。取材、文・山田貴美子
(by anan編集部)