「みはるさんは、純粋に情熱をぶつけられる人。モデルになった寂聴さんも、犠牲を払ってでも、切に生きたかった人なんだと思います。人生は自分が主体。他人の言うことは関係ないというところが、やっぱりカッコいい。今回の映画で描いているのは不倫ですから、なかには批判をする方もいるとは思いますが、一度きりの人生、ここまで愛せる人を見つけ、燃え尽きるっていうのは、ある意味素敵なことなのではないか、と思います」
みはると篤郎は、妻の笙子に隠れて愛を交わす。その一方で、それぞれ互いのいぬ場所で別の相手と体を重ねる。笙子は、本来なら恋敵であるはずのみはるに対し、好意のようなものを持つ…。3人の関係は、鬼に隠れて陰でこっそり楽しみを味わう鬼ごっこのよう。
「先日取材で、篤郎のモデルになった井上光晴さんの娘で、原作の小説を書いた井上荒野さんにお会いしたんですが、荒野さんのお母さんは、寂聴さんが夫と男女の仲だったことを知りながらも、“あの人、本当にいい人なのよ”と言っていたそうなんです。その関係を理解できる人は少ないでしょうし、“はぁ?!”と思う人もたくさんいるでしょう。でも、端がなんと言おうと、3人がよければいいんですよ。今3人は、同じ墓地で眠っているわけですから」
二人の関係は7年に及んだが、最後にみはるは出家を決意。寺島さんは実際に自分の頭髪を剃り、スキンヘッドになって演じたそう。
「覚悟を決めたあとも、この歳でスキンヘッドにすることで、頭髪の状態が悪くなったらどうしよう…と、ものすごく不安になってしまって。でも夫のローランが“こんな機会を逃しちゃ駄目! 坊主は絶対に美しい!”と言い張るもので…(笑)。夫は出会った頃から、“君はスキンヘッドが似合うはず”と力説し続けていたんです。でもいざ剃ったら、なんだか急に社交的な人間になりまして。坊主まではいかなくとも、また剃りたい気持ちもありますね」
みはるが運命の恋をする相手の篤郎を演じるのは、もう何度も共演を重ねている豊川悦司さん。
「私たちはたぶんペアになったとき、互いの本能的な男と女のバランスがいい塩梅なんだと思います。そういう二人ですから、中途半端な作品では共演したくない。ちゃんと絡んで、クリエイトできる作品に出たい。この作品で久しぶりに共演できたのは、とてもよかったです。いつか私たち、昭和の名役者カップルだった平幹二朗さんと太地喜和子さんみたいになれたらいいな、と、勝手に思っております」
『あちらにいる鬼』 実在した人物をモデルにした、男女3人の特別な関係を描いた物語。原作は井上荒野の同名小説。監督/廣木隆一。共演に豊川悦司、広末涼子、高良健吾、村上淳など。11/11(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー。©2022「あちらにいる鬼」製作委員会
てらじま・しのぶ 1972年生まれ、京都市出身。2003年『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で内外の賞を数多く受賞。現在ドラマ『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日系)に出演中。映画『天間荘の三姉妹』が公開中。
ネック付きニット¥29,700(LOEFF/UNITED ARROWS HARAJUKU TEL:03・3479・8180) スカート¥35,200(ASTRAET/ASTRAET SHINJUKU TEL:03・5366・6560) その他はスタイリスト私物
※『anan』2022年11月9日号より。写真・小笠原真紀 スタイリスト・中井綾子(crepe) ヘア&メイク・片桐直樹(EFFECTOR)
(by anan編集部)