グラフィカルなのに心に染みる、わかやまけんの世界を網羅。
わかやまは岐阜県岐阜市生まれ。グラフィックデザインの仕事を経て24歳で上京し、教科書の挿絵や紙芝居などを手がけた後、絵本創作の道へ進む。代表作「こぐまちゃんえほん」シリーズのほか、詩的な画風で独特の絵本の世界を築いただけでなく、絵本の研究誌の創刊や、絵だけで読む絵本“純絵本”を提唱するなど、絵本文化の普及にも大きく貢献。海外でも高く評価されている。
本展では彼の仕事を全5章で紹介。特に「こぐまちゃんえほん」シリーズの誕生から創作の過程をつぶさに知ることができるのが特徴だ。このシリーズは1970年創刊の第一作に始まり、全15作。実は、これらはわかやま一人による制作ではなく、こぐま社創業者・佐藤英和の発案で、劇作家の和田義臣、児童文学作家の森比左志が集まり、テーマからストーリー展開、文と絵に至るまで、全作を4人で制作したもの。子育ての真っ最中だったわかやまは、我が子の日常をスケッチして編集会議に参加していたという逸話も微笑ましい。
創作絵本はもちろん、民話の絵本化や、詩集の挿絵など、多彩な創作を続けたわかやま。「日本の子どもたちがはじめて出合う絵本を作りたい」、そんな彼の想いは約230点の展示品からも力強く伝わってくる。
Check1 代表作・「こぐまちゃんえほん」シリーズ。
1.本展ではシリーズが発表される前に描かれたわかやまの貴重な下絵も多数展示されている。2.3.「こぐまちゃんえほん」シリーズは、美しい発色のために6色の特性インクを1色ずつ刷り重ねる方式が採用された。そのためわかやまは1ページの絵のために6枚の原画を描いた。本展ではシリーズ随一のヒット作『しろくまちゃんのほっとけーき』表紙絵の描き分け原画も展示。その制作工程を紹介している。
1.「こぐまちゃんえほん」下絵、1970年 原画/こぐま社蔵
2.『こぐまちゃんのみずあそび』(1971年、こぐま社)
3.『しろくまちゃんのほっとけーき』(1972年、こぐま社)
Check2 多彩な創作活動を総ざらい。
4.6.まだ文字が読めない子どもたちのために絵だけで物語を楽しめる本を。そう考えたわかやまは『りぼんをつけた おたまじゃくし』や『おばけのどろんどろん』など絵の力だけで物語を読み解くことができる“純絵本”の制作に力を入れた。5.さらに『あかべこのおはなし』『ごんぎつね』など名作の挿絵や、民話を絵本に再構成、詩集の挿画も手がけるなど、幅広く活動。その美しい色と繊細な原画の数々も必見。
4.『りぼんをつけた おたまじゃくし』(1967年、野村トーイ)より 原画/個人蔵
5.『あかべこのおはなし』(1980年、こぐま社)表紙 リトグラフ/こぐま社蔵
6.『おばけのどろんどろん』(1980年、ポプラ社)より 原画/個人蔵
『こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界』 世田谷美術館 東京都世田谷区砧公園1‐2 7月2日(土)~9月4日(日) 10時~18時(入場は17時半まで) 月曜(7/18は開館)、7/19休 一般1200円ほか TEL:050・5541・8600(ハローダイヤル)
※『anan』2022年7月6日号より。文・山田貴美子
(by anan編集部)