舞台は、フィンランドの最北部ラップランド地方にある小さなホテル「メッツァペウラ」。ホテルマンのアードルフとシェフのクスタで切り盛りしていたホテルに、身元不詳の青年ジュンが現れる。所持品も所持金も乏しく、背中の和彫りの入れ墨が何やら訳あり。日本とフィンランドのミックスである17歳を、ふたりの老紳士は事情も聞かずに受け入れ、関係を育んでいく。
各話で、北欧の厳しい冬の寒さを溶かしてしまいそうな、温かなふれあいが描かれるコミック『ホテル・メッツァペウラへようこそ』が面白い! その著者が、福田星良さん。
「ヨーロッパのイケおじのマンガが描きたい、というのが最初でした」
さらに、打ち合わせ段階で、タトゥーを入れた青年のスケッチが好評だったことから、ジュンが生まれた。来歴ゆえか、遠慮深く、謝るときは土下座しがちという風変わりなクセがあるが、素直でがんばり屋。応援したくなる愛されキャラだ。
「『タトゥーより和彫りがいい』『ジュンが疑似家族の中で成長する物語にする』等々、試行錯誤していくうちに、さまざまな人が出入りするホテルの設定になりました」
老紳士ふたりは実は往年のホラー映画の大御所俳優がモデルだそう。
「アードルフはピーター・カッシング、クスタは私が大好きなヴィンセント・プライス。特にクスタには思い入れがあって、ビジュアルをかなり忠実にプライスに寄せています」
本作には、フィンランドの自然や文化を身近に感じるエピソードがいっぱい。たとえば、2巻第7話に登場する古い風習「椅子を贈ることが居場所を用意するという意味」もそのひとつだ。国民性を感じる余話が物語に溶け込んでいて、胸を打つ。
「マンガのネタが枯渇してきたらまた取材旅行すればいいやくらいの気持ちでいたのに叶わなくなって、今はひたすら関係書籍やYouTubeなどを片っ端から参考にしています。担当編集さんのアドバイスの『このホテルが実在するかのように思わせてください』というのが心に残っていて、自然も場所もいかに臨場感を出すかは意識しています」
和気あいあいとした時間の後でひとり物思いにふける静かなさまを描くのがお気に入りだそうだが、ジュンが贈られたカードをひとり読む第10話には、福田さん渾身の場面がある。また、ジュンが命を助けたティム・バーナネンの弟アキがホテルにやってくるなど、温かな人の輪が広がっていくのも本作の魅力だ。
ジュンと母親の問題、滞在ビザの問題など、先が気になる伏線がてんこ盛り。3巻が待ち遠しい。
『ホテル・メッツァペウラへようこそ』2 フィンランドの豊かな森や雪の風景、さらには料理や小物、筋肉や服…すべてフルアナログで描いているというから驚く。線の細やかさや美しさは圧巻だ。KADOKAWA 748円 ©福田星良/KADOKAWA
ふくた・せいら 愛知県出身。東京藝術大学卒。専攻は日本画。2016年、漫画誌『ハルタ』35号でデビュー。本作が初連載となり、同誌上で連載中。
※『anan』2022年6月8日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子
(by anan編集部)