尾野真千子さん演じる有科香屋子は、スランプに陥り作品を作れずにいた王子千晴を口説き落とし、表舞台に引っ張り出したプロデューサー。
「プロデューサー役でよかったと思いましたよ。みんなが絵を描いたりCGをやったり、手に職的ないろんな技術を芝居でやらなきゃいけない中、指示したり、謝ったりするだけですから。あっちだったら大変だったなと思って」
そう言ってアハハと笑う。
「香屋子が素敵なのは、スタッフを信頼してちゃんとその人たちに頭が下げられるところ。自分はプロデューサーという立場なわけだから、現場に対して『じゃあお願いね』くらいでもいいのかもしれない。でも、実際に手を動かす側からしたら、それってなんかちょっと腹立つじゃないですか。でも香屋子は、ちゃんとその人たちを信頼して尊敬の念を持っていて、だからこそ『お願いします』って深々と頭を下げられる。仕事相手に対して、ちゃんと敬意を持てるって素敵ですよね」
しかも、ワガママな王子の気まぐれに振り回されながらも、彼の起用に懐疑的な上層部から監督を守る気概の持ち主でもある。
「それはやっぱり、香屋子自身が王子に対して憧れを持っているっていうことが大きいんでしょうね。だからきっと、振り回されて当たり前、みたいな感覚もあったんじゃないですか。そういう人だとわかって仕事をお願いしているわけですし。ただ、あれだけやりたい放題やられたら、プロデューサーという立場では腹が立ったりするんですよ。それでも彼の作品に心酔しているからこそ、どうにかしたいと思う。王子を演じている(中村)倫也くん自身の、あの雰囲気というか、お芝居のせいもあると思います。何を思っての行動なのか、表情なのか、発言なのか、掴めないからこそ興味が湧く。そんな俳優さんですよね」
そんな香屋子と王子には、ラストで驚きの展開が用意されている。
「まー、シビれました。今回の撮影で、一番グッときたシーンといったらそこかな(笑)。ただそのとき私、お腹がとてもすいていて、結構シーンとしていた中での現場だったのに、尋常じゃないくらいお腹がぐぉーんって鳴ってめちゃめちゃ恥ずかしかったです」
今回、尾野さんの登場シーンは、ほとんどが中村さんとの絡みだけれど、そんな中プライベートで香屋子と(斎藤)瞳が偶然鉢合わせるシーンが挟み込まれる。『リデル』のプロデューサーと『サバク』の監督。ハケンを争うライバル同士ながら、お互いの仕事に対するリスペクトを感じる、微笑ましい場面だ。
「なぜかわからないけれど、瞳とのシーンは台本を読んだときからずっと気になっていたんですよね。1対1の場面だから、一見対決のようだけれど、お互いにリング外だから仕事のときに見せる顔と少し違う。そんな状況で、ふたりがちゃんと話をするところだからかもしれないです。撮影でも、とくに気合が入っていた気がします。吉岡(里帆)さんは、普段テレビや映画で見てイメージしていたより、フットワークの軽さというか、気づいたら近くにいるようなサバサバした雰囲気を持っていて。お芝居も素敵ですし、一緒にいて不思議な心地よさがある方でした」
気取らず、壁を作らず、サバサバした…といえば、まさに尾野さん自身もそんな人では!?
「私の場合、ズカズカ入っていって、気づいたらじゃなく、すでにいるってタイプですから。心地いい系じゃないやつです(笑)」
自身のことをそんなふうに茶化してみせるが、今回の吉岡さんしかり、中村さんしかり、尾野さんを慕う共演者は多い。
「それは声がデカいからじゃないですかね。いいことも悪いこともすぐに口に出しちゃうの。それも、みんなが聞こえる場所で。昔はもの静かでひと言もしゃべらない子だったのが、今はしゃべらずにいられない子になっていますし」
そう変わっていったのは、ここまでのキャリアと立場の変化から。
「自分が主役の現場なのに、今日は機嫌が悪いからしゃべりたくない、とか言ってられないじゃないですか。自分の機嫌の良し悪しを出すのは、プライベートの場だけでいいですよ。だって仕事だし、現場ではなるべく居心地いいようにって思っています。それは共演者とか周りとかじゃなく、自分が一番楽しくいるための方法なんですよね。ただ、現場でイラついたぶん、帰りの車の中では愚痴が止まらないってことはありますよ。それを聞くマネージャーは迷惑でしょうけど(笑)」
尾野さんの仕事のモチベーションは、好きな気持ちとやりがい。
「好きじゃなかったら無理だと思います。楽しくなかったら、そもそもやってなかったと思うし。ここまで続けてこられたのは、やりがい…つまり自分がやってきたことに対しての評価ですよね。もちろん、いい評価であれば嬉しいけれど、悪い評価だって、誰からも何も言われず、見てもらえてないのかもと思うより全然いい。その評価が、次の仕事のドアを開ける原動力になっている気がします」
一時期、仕事を続けることに疑問を抱いたこともあったそう。
「ちょうど20年やったときくらいかな。すでにテレビや映画に出させてもらえるようになった後で、評価もいただいていたんですけれど、何か壁にぶち当たったのか、この仕事をやっていていいんだろうかって思っちゃったんですよね。だから、事務所の人と話し合って、自主映画を作ってみたんです。自分のやりたいものを形にしたくて。いろんな場所に行って、いろんな人と出会って、カメラマンとか照明さんとかの仕事を身近で見たり話したりして。そのときに、自分がこの世界にいることをおごっていたというか、当たり前に思いすぎていたんだってハッとしたんです。人に何かをしてもらうことが当たり前になっていたことに気づいて、そこからちょっと気持ちが変わって。自分のペースでお仕事をさせてもらうようになって、また仕事が楽しくなったんですよね。なんでこの仕事が好きなのか、原点の気持ちに戻るって大事だなって思いました」
最後にこの質問を。人生を変えた作品は何ですか?
「全部です。毎回ね、変えてくれるの、いろんな意味で。気持ちが少し変わったり、洋服を変えてみたくなったり。そういうのって、この仕事をするうえで、すごく大事だと思っているんです。たしかに朝ドラっていうものは大きかったし、目に見えて仕事の量は変わったかもしれない。でも私の中では毎回、どんどん自分を変えられるから、毎回ワクワクが止まらない、みたいな感じなんです」
映画『ハケンアニメ!』 新人アニメ監督・斎藤瞳を吉岡里帆、彼女を振り回すプロデューサー・行城理を柄本佑、天才監督・王子千晴を中村倫也、王子に振り回されるプロデューサー・有科香屋子を尾野真千子が演じる。この2組、覇権を取るのはどっち!? 監督/吉野耕平 脚本/政池洋佑 出演/吉岡里帆、中村倫也、柄本佑、尾野真千子ほか 5月20日より全国公開。©2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
おの・まちこ 1981年11月4日生まれ、奈良県出身。’97年の映画『萌の朱雀』でデビュー。吹き替えを担当した『ミニオンズフィーバー』が7月15日公開。映画『こちらあみ子』が7月に、『サバカンSABAKAN』が8月に公開予定。
ワンピース¥49,500(RUMCHE/BRAND NEWS TEL:03・3797・3673) フラットシューズ¥26,400(CAMPER TEL:03・5412・1844) その他はスタイリスト私物
※『anan』2022年5月18日号より。写真・MELON(TRON) スタイリスト・江森明日佳(BRUCKE) ヘア&メイク・山内聖子 インタビュー、文・望月リサ
(by anan編集部)