「今回は、恋愛小説を書こう、というところから始まりました。もともと片想いを書くのが好きなんです」 と、奥田亜希子さん。新作長編『求めよ、さらば』は、あるカップルの物語だ。
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翻訳家の志織には、結婚して7年になる誠太という優しく誠実な夫がいる。唯一の悩みは、不妊治療に励んでもなかなか子どもができないこと。だがある日突然、誠太が置き手紙を残して失踪してしまう――ここまでが第1章。第2章では時が遡り、彼らの馴れ初めが明かされていく。

「志織と誠太がお互いに好きになる過程では、一般的に欠点とされるところにも惹かれるようにしました。相手が自分にとっていかに特別な存在かが読者に伝わらないと、後半に説得力がなくなりますから」

この恋愛過程が、なんともキュンとさせる。鍵は、惚れ薬。実は本書の出発点はそこにあったという。

「以前、雑談で“惚れ薬があったら使うか”という話になったんです。使うとしたらどういう気持ちなのか、使われた側もそれを知ったらどう思うのか興味がありました」

惚れ薬とまでいかなくとも、誰でもおまじないをしたり、神様に祈ったりした経験はあるはず。でも、何かを強く望む思いが必ずしも報われるとは限らない。

「片想いでも不妊治療でも“求めよ、さらば与えられん”というわけにはいきませんよね。そのことがひっかかっていて、タイトルにしました」

望みが叶って好きな者同士で結婚したはずの志織たち。ではなぜ、誠太は姿を消したのか。

「書いているうちに、これはコミュニケーションの話でもあるな、と感じました。相手を傷つけないように気遣っていると、なかなか一歩踏み込めないことがあります。それで表面的にはうまくいっていても、何かあった時に乗り越えられる力は育ってないですよね」

“対等に傷つけ合うことの価値”に気づいた、と奥田さん。

「互いに相手を傷つけるかもしれない覚悟で求めないと得られないものもあると思いました。ただ、欲しいものが得られたらハッピーエンドなわけじゃない。それでようやくスタート地点に立てるのかもしれません」

さて、もし惚れ薬があったら、あなたは使いますか?

『求めよ、さらば』 翻訳家の志織の夫・誠太は、友人たちが羨むほど理解があり誠実な男性。しかしある時、彼は置き手紙と離婚届を残して失踪した――。KADOKAWA 1760円

おくだ・あきこ 2013年「左目に映る星」で第37回すばる文学賞を受賞しデビュー。他の著書に『ファミリー・レス』『リバース&リバース』『青春のジョーカー』『彼方のアイドル』など。

※『anan』2022年1月26日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・瀧井朝世

(by anan編集部)

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社会に生きるうえで欲望が表面化しやすい日です。例えば買い物欲求。欲しいものをあれもこれもと買い物かごへ放り込んでしまうかも。経済を回す目的では良いことかもしれませんが、生活を圧迫するほど浪費してしまわないように自己セーブが必要です。買い物に限らず、あらかじめ欲求の限界ラインを決めておきましょう。

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